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第2060話

 やや呆気にとられたところで、アクセルはハッと我に返った。 「いや、ちょっと待て。何で山にカメがいるんだ? おかしくないか?」 「おかしいねぇ。普通はもっと水辺の近くとか、山だとしても麓にいるはずだし」 「それとも、ヴァルハラのカメは山にいるものなのか? 川や海がないからその代わりなのか?」 「さあね。まあでも、とにかくあまり手を出さない方がいいかも。罠だったら大変だもの」 「そ、そうだな……。別の獲物を探した方がよさそうだ」  そもそも、こんな大きなカメを狩ったところで持って帰れるかわからないし、頑張って持って帰ってもどこをどう捌けばいいかさっぱりだ。  とりあえずこのカメは見なかったことにして、違う場所を探索することにした。  しばらく周囲を歩き回っていたら、またもやガサッと音がしたのでそこの様子を窺った。  だが、そこにいたのも先程と同じようなカメだった。 「うわっ、また……!」 「? 何なんだろう? この辺、カメの縄張りなのかな」 「そ、そうなのか? でもカメってそんなに縄張り意識強かったっけ……?」 「生憎、私もよく知らないんだ。ただ、喧嘩を売るだけ損なのはわかる。食料にならない獣と戦っても、骨折り損のくたびれ儲けだしね」 「確かに……。なら一度下山した方がいいかな」 「そうだね。ここがカメの縄張りなら、他の獣はいなさそうだし」  やむを得ず、アクセルは兄と共に一度山を下りた。  先程とは別の方向から山に入ってみようとしたのだが、入口に足を踏み入れようとした時、兄に声をかけられた。 「ねえ、あのカメついてきてない?」 「えっ……?」  後ろを見たら、例の巨大なカメがのそのそとこちらを目指して歩いてきていた。  相変わらず動きは遅いが、何か明確な信念があって追いかけているようだ。 「な、何で? 縄張りに踏み込んだのを怒ってるのか?」 「うーん……でも殺気は感じないよ。お前に何か用があるんじゃないの?」 「そんなこと言われても、俺はカメの知り合いなんていないんだが」

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