2060 / 2203
第2060話
やや呆気にとられたところで、アクセルはハッと我に返った。
「いや、ちょっと待て。何で山にカメがいるんだ? おかしくないか?」
「おかしいねぇ。普通はもっと水辺の近くとか、山だとしても麓にいるはずだし」
「それとも、ヴァルハラのカメは山にいるものなのか? 川や海がないからその代わりなのか?」
「さあね。まあでも、とにかくあまり手を出さない方がいいかも。罠だったら大変だもの」
「そ、そうだな……。別の獲物を探した方がよさそうだ」
そもそも、こんな大きなカメを狩ったところで持って帰れるかわからないし、頑張って持って帰ってもどこをどう捌けばいいかさっぱりだ。
とりあえずこのカメは見なかったことにして、違う場所を探索することにした。
しばらく周囲を歩き回っていたら、またもやガサッと音がしたのでそこの様子を窺った。
だが、そこにいたのも先程と同じようなカメだった。
「うわっ、また……!」
「? 何なんだろう? この辺、カメの縄張りなのかな」
「そ、そうなのか? でもカメってそんなに縄張り意識強かったっけ……?」
「生憎、私もよく知らないんだ。ただ、喧嘩を売るだけ損なのはわかる。食料にならない獣と戦っても、骨折り損のくたびれ儲けだしね」
「確かに……。なら一度下山した方がいいかな」
「そうだね。ここがカメの縄張りなら、他の獣はいなさそうだし」
やむを得ず、アクセルは兄と共に一度山を下りた。
先程とは別の方向から山に入ってみようとしたのだが、入口に足を踏み入れようとした時、兄に声をかけられた。
「ねえ、あのカメついてきてない?」
「えっ……?」
後ろを見たら、例の巨大なカメがのそのそとこちらを目指して歩いてきていた。
相変わらず動きは遅いが、何か明確な信念があって追いかけているようだ。
「な、何で? 縄張りに踏み込んだのを怒ってるのか?」
「うーん……でも殺気は感じないよ。お前に何か用があるんじゃないの?」
「そんなこと言われても、俺はカメの知り合いなんていないんだが」
ともだちにシェアしよう!