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第2063話

「くっ……」  空中で体勢を立て直し、大木に叩きつけられる前に枝を掴んで勢いを殺す。  受け身をとって最小限のダメージで木の根元に着地すると、もう一度イノシシの元に飛び掛かろうとした。 「……!」  その時、視界の端に兄の姿が映った。 「ギェアアアァァッ!」  雄叫びを上げながら、イノシシに斬りかかっていく兄。白い片マントが翻り、太刀を振り下ろした頭部から獣の血が噴き出していた。それが飛沫となって宙を舞い、兄の白っぽい衣装に降り注ぐ。  ――兄上……。  たなびく白マントに赤い鮮血、金色の髪はふわりと揺れ、獲物を見据える目は青く鋭い。  獣のような雄叫びを上げていても完全に興奮しているわけではなく、常に冷静で周辺の状況把握を欠かさない。  そんな光景を見たら、どうしようもなく胸が高鳴ってしまった。  なんて綺麗なんだ……さすが俺の兄上、世界一かっこいい。 「グオォォ!」  イノシシが大声を上げて小さく跳躍した。ドシン、という地響きと共に、周辺の小石や葉っぱが飛び散る。  兄はすぐさまイノシシと距離を取り、こちらに寄り添うように立った。  アクセルも兄の隣に立ち、改めて小太刀を構えた。 「うーん、やっぱり毒なしだと元気だね。ちょっと首を斬っただけじゃびくともしないや」 「そのようだな」  大型の獲物を狩る時、普通は毒を塗った矢か何かで動きを鈍らせてから戦闘に入るものだ。元気満々の獲物を相手どるとこちらも体力を消耗するし、負傷も多くなってしまうからである。  だがアクセルは、毒矢を使うのはあまり好きではなかった。  卑怯とかそういうことではなく、単に毒を吸収した獣の肉を食べたくないのだ。いくら「人体には無害ですよ」と言われても、やっぱりちょっと不安になるではないか。  どうせなら、毒なしの安全な肉を提供してあげたい。それがアクセルのこだわりだ。 「ブルオォォォ!」  イノシシが前足一本で地面を蹴った直後、その巨体がものすごいスピードでこちらに迫ってきた。

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