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第2069話

 アクセルは配給の食料を岩陰に隠し、下着以外の兄の衣服を引っぺがして、泉に入るよう促した。  兄は渋々泉に入ってくれたが、 「お前、こういう時って妙に強引だよね……」  と恨めし気に文句を言われた。  ――しょうがないだろ。兄上の身体に傷が残るなんて、そんなの俺の方が我慢できないんだから……。  アクセルにとって、兄はいろんな意味で「完璧な人」なのだ。傷物になるなんてとんでもない。  理想の押し付けかもしれないけど、身体に傷を残していいことなんてないのだから、泉に連れて行くこと自体は間違っていないはずだ。ここはキッチリ傷を完治させてから帰宅してもらう。  ついでなので、アクセルも下着一枚になって泉に入った。自分ではあまり気にしていなかったが、いざ服を脱いでみると細かい掠り傷が結構あった。 「ねえ、オーディン様の魔力、だいぶ戻ってきているみたいじゃない?」  と、水浴びしていた兄がこちらに寄ってくる。 「ほら、擦り傷もすぐ治ったし、こっちの傷跡もあっという間に薄くなったよ。もう帰ってもいいよね?」 「ダメだ。薄くなっているだけで、まだ完全に消えたわけじゃないだろ」 「えー……? もうほとんどなくなったようなものなのに」 「それでもダメです。何時間も入っているわけじゃないんだから、もう少し大人しくしててくれよ」 「む……。でも、ただ泉に入ってるだけってつまんないんだよねぇ……」  兄が悪ふざけでこちらの首元に腕を回し、ギューッと密着してくる。 「時間潰しを兼ねて、ここでお兄ちゃんとイイことする?」 「なっ……!? か、勘弁してくれよ、こんなところで……!」 「そう? たまにはいいと思うな、お外でのプレイも。ここ、ちょうど岩陰になって見えにくいし、スリル満点じゃない?」 「結構です。というか、昨日やったばかりなのでそういう気分じゃありません」  素っ気なく断り、アクセルは兄から離れた。  兄もそれ以上は何も言わず、泉の縁に寄りかかって傷の治りを待っていた。

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