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第2070話
「……ん?」
突然、もっちゃもっちゃと何かの咀嚼音が聞こえてきて、アクセルはハッと我に返った。兄も無言だったから、余計にその音が大きく響いた。岩陰からだ。
「って、私たちの配給食べられてない!?」
「えっ!? ちょ、ちょっと待てえぇ!」
慌てて岩陰を覗き込んだら、案の定例のカメが配給の肉を食い尽くしていた。
ただでさえ少ない配給を綺麗に食べられてしまい、さすがのアクセルも絶望した。
「な、なんてことしてくれたんだ! 俺たちの大事な食料だぞ! せっかく苦労して狩ってきたのに!」
「グァ……?」
「何なんだよ、きみは! さっきから俺たちの食料横取りばかりして! もういい加減にしてくれ!」
「…………」
するとカメは、さすがにまずいと思ったのか、しょぼんと俯いた後、甲羅に引っ込んで閉じこもってしまった。
腹立ちまぎれにアクセルはカメの甲羅をベシッと叩き、もう一度冷たい泉に入った。
「ったくもう! 今日の晩御飯どうしてくれるんだよ……!」
これでは嵩増しメニューどころではない。たまには兄にお腹いっぱい食べてもらおうと思っていたのに、全部台無しではないか。
ピピの食事も少なくなってしまうし、本当にどうしよう……。
「お前が食べ物のことで怒るのは珍しいね」
反面、兄は普段とさほど変わらない様子だった。
意外に思い、アクセルは兄に聞いた。
「……兄上こそ、肉を食われてブチ切れてないのは珍しいな」
「お前が代わりにブチ切れてくれたからね。怒る気力もなくなっちゃった」
「それは……だって、兄上と狩ってきた食料だったし……。食料自体、あまり余裕があるわけじゃないから、本当にどうしようって……」
「まあね。一応まだ昨日の配給が残ってるから、今日はそれで我慢しよう。明日も同じことをされたら、今度こそあのカメ、甲羅ごと捌いて唐揚げにしちゃおうね」
「う、うん……そうだな」
唐揚げはともかく、勝手に食料を食い尽くしたお詫びくらいはして欲しいところだ。
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