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第2071話

 冷たい泉で頭を冷やし、心身共に完治したところで帰宅する。  念のため、兄の身体をチェックして傷が残っていないか確認しておいた。ちゃんと綺麗な身体に戻っていたので安心した。 「ぴー」  帰った途端、ピピがすっ飛んできた。  ふわふわの身体でじゃれつきがてら、「今日は何の食料ゲットしてきたの?」と目で尋ねて来る。 「あー……ごめんな。今日は食料持って帰れなくて……」 「……ぴ?」 「その、ちょっとしたトラブルがあってな。あんなところに食料置いてた俺も少し悪かったんだけど……」 「…………」 「でもピピの食事は何とか用意するから。心配しないでくれ、な?」  言い訳めいたことを言って、アクセルは逃げるようにキッチンに駆け込んだ。  食料庫を確認してみたところ、配給の鹿肉が少し、それと申し訳程度の山菜と小麦粉しか残っていなかった。肉はともかく、圧倒的な野菜不足だ。  ――う……これはヤバい。ピピのスープが作れないぞ……。  今からでも野草や山菜を採りに行くか。山菜採りならさほど危険もないし、山の麓にたくさん生えている。時間もかかるまい。  アクセルは、リビングでゴロゴロしている兄に声をかけた。 「兄上、俺ちょっと山菜採ってくるよ」 「……え、今から? もう夕方になるよ?」 「大丈夫だよ、山の麓だし。すぐ集めて帰ってくるから、心配しないでくれ」 「ちょっとお前……」  兄が止めるより早く家を飛び出し、駆け足で山の麓に向かう。  そして持参した小ぶりの籠にヨモギやタンポポ、ツクシ、キノコ等を手当たり次第に放り込んだ。 「グァ」 「ひぇっ!?」  いきなり横からカメの鳴き声が聞こえ、驚いて飛び上がりそうになった。  すぐ隣を見たら、例のカメがこちらにくっつくように籠をじっと眺めていた。 「な、なんだ、きみか……。今度は何の用だ?」 「…………」 「悪いけど、これはあげないぞ。山菜食べたいならこの辺にいっぱい生えてるから、自力で探してくれよな」 「…………」 「……というか気配もなく近くに寄ってくるの、心臓に悪いからやめてくれないか。敵意がないなら堂々と近づいてきてくれた方がいいよ」

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