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第2075話

「左様でございます」 「なんだ……。それならそうと、早く言ってくれればよかったのに」 「お取込み中のようでございましたので。側に無関係の人間もおりましたゆえ、あなたと話すタイミングがなかったのです」 「あ……ああ、まあ、そうか……」  別に兄はいきなりカメが喋っても驚かないとは思うが、カメにとっては「無関係の人間」に違いない。結晶のカメに会った時も一緒にいなかったし。 「じゃあ、さっきのオオカミを退けた罠も、もしかしてきみが……?」 「はい。簡単なバリアを貼らせていただきました。一般的なオオカミならば、触れた瞬間あの世行きになる代物でございます。もっとも、昼間の大イノシシくらいになってしまうと、バリアごと突き破られてしまう可能性が高いですがね」 「そ、そうだったのか……。何だかよくわからないけど、すごいな……」 「我々にとってはごく当たり前の防衛術です。特筆することでもありません」 「は、はあ……。何にせよ助かったよ。ありがとう」  感嘆の溜息を漏らしながら、アクセルはカメに礼を言った。  動きが遅い分、護りの術に特化しているのか……本当に不思議な一族だ。 「それはそうと、きみの一族ってみんな食欲旺盛なのか? 俺たちの食料、全部食べちゃったし……」  今もオオカミ食べてるし、と付け加えたら、カメは少し顔を下げて答えた。 「それに関しては、大変申し訳ないと思っております。我々は起きている時間が短いので、活動するエネルギーはその短い時間に全て補わなければならないのです。なので目につく食べ物はつい、口に入れてしまうのです」 「は、はあ……そうなのか……大変だな……」  かといって、そこら辺にある食べ物を手当たり次第に食べられても困るのだが。  今度からはこのカメの手の届かないところに食料を置いておかないとダメだな……とアクセルは再認識した。食べられたくなかったら、そもそも相手に見せるなということだ。 「じゃあ俺はそろそろ帰るよ。あまり暗くなると兄上も心配するだろうし」 「…………」

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