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第2082話

「兄上……?」 「いや、ごめんね。オーディン様に謁見した時のことを思い出したから、その流れで『そう言えば』って思っただけ。たいした意図はないよ」 「…………」 「さ、今日はもうおやすみしようか。明日も朝から仕事だからね」 「あ、ああ……」  兄に促され、アクセルも一緒に寝室に入った。  お互いのベッドに入って休むことになったが、兄が眠った後もアクセルはなかなか寝付けなかった。  ――忘れていること、か……。  自分にはそんなものないと思っていた。  復活初期は記憶がなくていろいろと戸惑うことも多かったが、今はそんなこともない。  兄が亡くなってからヴァルハラに行くまでの約十年間はほとんど記憶にないけど、それはラグナロクが始まる前からそうだったし……。  ――別に今更関係ないよな……。  そう自分に言い聞かせ、一生懸命目を閉じた。  そうやって自分を暗闇に閉じ込めているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。 ***  翌朝。アクセルはいつも通り起床した。  ピシッとベッドを整え、洗面所で顔を洗い、いつもの服に着替える。  さて今日の朝ご飯は何にしよう……とキッチンに入ろうとしたら、ベランダの窓をベシベシ叩く音が聞こえてきた。ピピだった。 「ピピ、おはよう。もうお腹が空いたのか?」 「ぴー! ぴー!」 「これからご飯作るから、ちょっと待ってて……」  そうベランダの窓を開けた瞬間、何か尋常ではない臭いが漂ってきた。  一言でいえば焦げ臭い。家も庭も異常はなかったのだが、何かが焼ける臭いはずっと鼻をついている。  恐る恐る庭に出て状況を確認してみたのだが、目に飛び込んできた光景に絶句してしまった。  ――な……なんだ、これ……?  家の周りがなくなっていた。爆弾でも落とされたのかというくらい、周辺が焼け野原になってしまっている。  その中でアクセルの家や庭だけは無傷という、シュールな光景だった。 「ど……どういうことなんだ、これは……? 一体何が……」 「昨夜のうちに襲撃されたようです」 「っ……!」

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