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第2087話

「うーん……やっぱりこれはおかしいね」 「そう、だな……。建物はともかく、山までなくなってしまうのはいささか……」 「幻覚かはわからないけど、何かしらの仕掛けはありそうだ。もう少し歩いてみようか」  言われるがまま、アクセルは兄について行った。  しばらくは何もない焼け野原が続いていたが、一定のところまで歩いたら急に周りの景色が変わった。 「え……?」  焼け野原とは正反対の、穏やかな緑の原っぱが広がっている。  遠目には背の高い山や森も見えており、空には綿菓子のような雲も浮かんでいる。穏やかに晴れていて、実に散歩日和ないい天気だった。 「……って、どこだよここ!? 何でいきなりこんなところに……!」 「ふーむ……焼け野原より健康的な景色になったけど、これもまたおかしいね」 「お、おかしいけど、俺たちの家は!? ピピとカメが家にまだいるのに!」  後ろを振り返っても、自分たちの家は見えない。  このまま家に帰れなかったらどうしよう。ピピとカメが飢え死にしてしまう。  せめて何かの幻覚だったなら……と兄のマントを握り締めていると、 「だから落ち着きなさいってば」 「いでっ!」  太刀の鞘で頭をぶん殴られ、アクセルは目を白黒させた。本気の殴打ではなかったが、さすがに痛くて涙が出た。 「まったくお前は……予期せぬことが起きるとすぐパニックになる。パニックは周りに伝染するから、平気じゃなくてもなるべく平気なフリをしておきなさい。私までパニックになったら大変でしょ」 「す、すみません……」 「それに、ピピちゃんもカメくんも元は野生動物だ。自分一人で生き抜く力はあるはず。しばらく放置してても何とかなる」 「…………」 「そんなことより、今は自分たちが生き延びることを考えないと。家もない、食べ物もない、着るものもないんだから、私たちの方こそピンチだよ。何とかヴァルハラに帰らないと、野垂れ死んでしまう」 「は、はい……」  兄の言う通りだ。今は自分たちの身の安全を最優先にしなくては。

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