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第2090話

「カメくん本人がこう言ってるんだ。とりあえず私たちは先に帰ろう。その後のことはまた考えればいいよ」 「う……だけど……」 「さすがにカメくんを抱えて帰ることはできないでしょ。現実的に不可能なことは置いといて、まずは自分たちができることをやっていこう」 「…………」 「わかった? お返事は?」 「……はい、兄上」  兄の言う通りだ。今の自分たちにはカメを連れて帰ることはできない。  ただ、このまま置いて帰るのも、何だか後味が悪い気がした。  本人はお構いなくと言い張っているが、こちらとしては構わないわけにもいかないんだよなぁ……。  ――せめて、なるべく早くバルドル様のところを訪ねるしかないか……。  アクセルは小さく溜息をついた。  問題が山積みすぎて、そろそろ頭がパンクしそうだ。  ヴァルハラに戻ったところで切り取られた我が家は存在しないわけだし、衣食住をどうすればいいかもわからない。  兄がいてくれるから何とか慌てずに済んでいるけれど、内心は「明日からどうしよう」、「これからどうやって生活しよう」という不安でいっぱいだった。 「さ、一休みしたら出発しようか」  一度家に戻り、作り置きしておいたハチミツ入りレモン水を飲み干す。  当分この家には帰ってこられないだろうから、腐りそうなものは全て処分することにした。本当は持って行きたい思い出の品――食器や家具や衣装等がたくさんあったが、仕方がないので全部置いていくことにした。  今まで自分たちが当たり前に生活していた場所を手放さなければならないのは、やはり心苦しい。庭の露天風呂やピピの小屋とか、頑張って手作りしたのに。 「そんな顔しなくていいんだよ。原因を究明して解決できれば、家もヴァルハラに戻ってくるだろうし。生きていれば何とかなるでしょう」 「そ、そうだな……」 「ほら、顔上げて前を見て。まだまだやることはたくさんあるんだからね。くよくよしている時間はないよ」  兄にバシッと背中を叩かれ、本日何度目かの喝を入れられた。

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