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第2091話
それで何とか気持ちを切り替え、アクセルは慣れ親しんだ我が家に別れを告げた。
「カメくん、きみが何と言おうと後で絶対迎えにくるからな。それまでここで待っててくれよ?」
出掛ける直前もう一度カメに声をかけたものの、カメは聞いているのかいないのか、甲羅に引きこもったまま出てきてくれなかった。
アクセルは兄とピピと共に、透ノ国の中央に聳え立つ大樹を目指した。
――それにしても、一体誰が俺たちの家を……。目的は何だったんだろう……。
こんな時に考えたって、ロクな答えは出ない。それはわかっていたが、考えずにはいられなかった。
透ノ国は、アース神族の世界 やヴァン神族の世界 、死者の世界 とも違う、切り離された場所である。
元の世界とそっくりな景色を切り取り、それをワープで継ぎはぎして全体を構造しているのだ。狩り場となる山を歩いていたと思ったら次は海岸付近を歩いていたり、自分の生まれ故郷に似た村を通り過ぎたら、次の瞬間には巨大な城が見える城下町に来ていたりする。
でもわかっているのはそれだけで、何をどうすれば新たな場所を切り取れるのか、切り取られた場所はどうなるのか、元に戻せるのか……等々、そういった仕組みはさっぱりであった。
今回は自分の家と庭が切り取られたわけだが、一体誰が何のためにこんなことをしたのかよくわからない。
この手の所業は物理的には不可能だから、何らかの魔法や神の力が働いていると考えてよさそうだけど……魔法や神の力だとしたら、自分たちだけで解決するのは難しいのではなかろうか……。
「ふう……やっと着いた。なんか無駄に回り道させられた気がするよ」
目的の場所まで辿り着き、兄は大樹を見上げた。
天まで続いているように見える大樹は先の方がぼやけており、ハッキリと見ることができない。ここを登って行くといつの間にか爪痕の前に戻っているのだが、その仕組みも未だに謎のままだ。
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