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第2097話

 すると兄は、少し慌てた様子でぶんぶんと手を振った。 「違う違う! 変な誤解しないでよ。中身がお前じゃないなら、手加減なしにやっちゃえるなと思っただけだって」 「何だよそれ? いつも手加減なしにやりたい放題してるくせに」 「そんなことないよ? いつもはお前の限界を見極めながら、ある程度のところで引いてるよ。本当に手加減なしにやってたら、お前は多分耐えられなくて毎回吐いてると思う」 「は、吐いてるって……」  一体どんなやり方をしたら吐くことになるのだろうか。毎回限界まで追い詰められていると思っていたが、あれより更に上があるのか。なんか怖いのだが。 「……本当のお前には絶対にやらないことでも、メリナちゃんにはできちゃうってことさ。お前が私の身体を斬り刻んだのと理屈は同じだよ」 「あ……」 「まあ任せといて。あんな小娘、ものの数分でノックアウトだから、ね?」 「う、うーん……」  曖昧に返事をする。  兄のことは信頼しているが、メリナに身体を貸すのはうっすらとした不安があった。  身体を貸している間、自分の意識はどこに行くのだろう。身体から追い出されたりはしないだろうか。どこかをふわふわ彷徨って、元の身体に戻れなくなったらどうしよう……。 「ねえ、さっきからなにをはなしてるの? はやくしてよ」  痺れを切らしたメリナがこちらに近寄ってくる。 「それで、こんどはどっちがからだかしてくれるの? メリナはどっちでもいいけど、できればあかいお兄ちゃんがいいな。あおいお兄ちゃんのからだかりると、いきなりきられてたいへんなんだもん」 「……それを俺に言うか? そもそもきみが兄上の身体を乗っ取らなければ、俺だって問答無用で斬ったりなんか」 「うんうん、大変だったねぇ。この子、一度ブチ切れると意外と過激だからさ。私の身体でも平気で斬ったり殴ったりできるんだよねぇ」  ……話を合わせるためとはいえ、人聞きの悪いことを言わないで欲しい。過激かどうかでいうなら、兄の方が余程過激なくせに。

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