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第2099話

 ヴァルハラに戻り、自分たちの家があった場所に行ってみたところ、本当にそのままの情態で家が残っていて少し面食らった。亜空切断なんてやった後とは思えなかった。  ――これ、傍目には「住人が突然行方不明になった」ように見えてるんだろうな。  家は残っているのに住人だけがいないから、「どこかに出掛けているのかな」と思われてしまう可能性が高い。  今回は運よく助かったけど、本来だったら死んだことも知られないまま存在だけスパッと消されてしまうわけか。  まるで石碑を壊した時みたいに……。  ――何だか嫌な感じだな……。  遺体の残らない「死」ほど気味が悪いものはない。  目の前で死なれるのはもちろんショックではあるが、明らかに「死んだ」とわかるのでその後の対応が取りやすいという面はある。  だけど、遺体がなければ何もできない。そもそも生きているのか死んでいるのかすら、不明なことも多いのだ。  生前の自分は血まみれの兄を看取ったけど、あれはあれで幸せなことだったのかもしれない。大きな戦争であればあるほど、大事な人の死に目に会えないことが多いから……。 「ねえ、まだからだかしてくれないのー?」  ちゃっかりついてきたメリナが、焦れたように口を尖らせる。 「いえについたら、おとなのあそびしてくれるってお兄ちゃんいったじゃない」 「ああ、そうだったね。家の確認をしたら、すぐに貸してあげるよ」  ……兄とメリナの会話を聞いたら、ますます胃の辺りが重くなった。 「よしよし、ベッドもちゃんと残ってる」  当たり前に家に入り、玄関、洗面所、浴室、キッチン、リビング……と隅々まで確認し、最後に兄は自分たちの寝室に入った。  アクセルのベッドはピシッとベッドメイクされていたが、兄のベッドは起き抜けのまま布団が雑に畳まれていた。 「じゃあお前、ちょっとここで寝転がっててくれる?」  兄が自分のベッドを指差す。  少し躊躇ったが、仕方なくアクセルは兄のベッドに横になった。  暗い溜息をついていると、兄が宥めるように頭を撫でてくれた。

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