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第2122話

「で、でも結晶の大樹はカメが食い尽くしたし、跡形もなく消え去ったのは事実だから問題ないだろ? 結晶の大樹が魔力の源だったのは確かなんだし」 「その情報をくれたのはバルドル様だけど」 「……あ」 「『魔力の供給源が、採掘場の地下にある』……これが嘘だった場合、魔力の源自体全然破壊できてないことになっちゃうね。無駄骨とは言わないけど、魔法の脅威は防げてないんじゃないかな」 「そ、そんな……」 「それに同行者のホズ様もさ。バルドル様に一番近い方だから、もしかしたらグルだった可能性もある。バルドル様の企みを知ってて、あえてお前について行ったのかもしれない」 「い、いや、それはない。あの時、ホズ様に同行をお願いしたのは俺の方だ。ホズ様は俺に同行する意思なんてなかったよ」  何とか反論したのだが、兄は首を横に振るだけだった。 「それはわからなくない? もしお前から依頼されなければ、何か理由をつけて同行していた可能性は十分考えられるじゃないか。お前はそそっかしいから、同行の理由なんていくらでも思いつくよ」 「う……でも……」 「あまり考えたくないけどね……。でも黒幕候補に名前が挙がっている以上、全く疑わないわけにもいかない。最悪の事態は想定しておかないと」 「…………」  アクセルは力なく小太刀を握った腕を下ろした。  兄の言うこともわかる。ずっと親しんできた恩人だから疑いたくはないが、こういう時にフィルターがかかっているのは危険なのだ。「あの人がそんなことをするはずがない」という色眼鏡で見てしまうと、わかるはずのこともわからなくなってしまう。  仕方なくアクセルは、小太刀を鞘にしまった。そして出来上がった「転移石」を鍛冶屋のエルフから受け取って、言った。 「……兄上の考えはわかったよ。こういう時は、なるべくフラットな目で見ないといけないんだったな。だったら俺は、バルドル様の疑いが晴れるように調べて回るだけだ」

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