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第2124話
「おっと、ここかな?」
兄が見覚えのある平野の前で足を止めた。
自分たちが暮らしていた家が遠目に見える。何回目かの経由で、庭の隅にワープできたようだった。
だが、庭にあるはずのうさぎ小屋や露天風呂がなくなってしまっている。素振り用の訓練器具すらない。
「あの……何かいろいろ消えてるんだが」
「うーん……庭にあったやつは全部丸太製だからね、カメくんにとっては美味しかったのかもよ」
「ええー……? 丸太まで食べるのか? どんな胃袋をしてるんだよ……」
「それはカメくんに聞いてごらんよ」
と、兄がベランダを指し示す。
例のカメはアクセルが作ってやった寝床が気に入ったのか、手脚を引っ込めて呑気に寝ているところだった。閉じこもった甲羅から「ZZZ」という鼾 が聞こえてくる。
――なんというか……ものすごく元気そうだな……。
心配して損した……とまでは言わないけれど、本人が「心配は無用です」と言っていたのもわかる気がする。
苦笑しつつ、アクセルはコンコンとカメの甲羅を叩いた。
「おーい、迎えに来たぞ。早く帰ろう」
「……ZZ……」
「うちに帰れば丸太以外の食事があるぞ。ちゃんと転移石も作ってきたし、起きてくれよ」
「……ZZ」
「なあ、早くしてくれ。俺たち、こんなところでもたもたしている場合じゃないんだ」
ノックをやめて軽く揺さぶろうとしたのだが、カメは重さが一〇〇キロ以上ある。簡単に揺さぶれるような相手ではなかった。
「ねえ、別に起こさなくていいんじゃない? 転移石を使っちゃえば、相手が起きていようが寝ていようが関係ないんだし」
と、兄が横からアドバイスしてきた。
言われてみればその通りだなと考え直し、アクセルはカメの甲羅に跨った。兄もその後ろに乗った。
青年二人が乗っても、カメはびくともしない。
「じゃ、行くぞ」
アクセルはカメの寝床を狙って転移石を落とした。
すると閃光が弾けたようにパアッと周りが明るくなり、あっという間に目の前が真っ白になった。
「うわっ……!」
反射的に手で目を覆う。
何も見えずに困惑していると、不意に兄の声が聞こえてきた。
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