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第2125話

「おや、こんなところに出ちゃったか」 「えっ……?」  目を開けて周囲の様子を探ってみる。  そこは見覚えのない神殿の前だった。直径五メートルはありそうな巨大な石柱が左右にビシッと整列しており、分厚い石でできた天井を支えている。柱が一本でも崩れたら屋根ごと天井が落ちてしまいそうだ。 「ええと……ここ、どこだ……?」 「ありゃ、お前覚えてないの? 一度だけチラッと来た事あるけど」 「えっ? そうだっけ……?」  そう言われても思い出せない。  少なくともヴァルハラではないことは明白だが、ヴァルハラ以外で訪れたことのある場所といったら、アース神族(アースガルズ)死者の国(ヘル)、それに透ノ国くらいなものだが……。 「ここは巨人族の神殿でございますねぇ……」  今まで(いびき)をかいていたカメが、にゅっと手足と首を伸ばしてきた。  アクセルはびっくりして甲羅の上から飛び退いた。 「巨人族の神殿……? って、もしかして、ラグナロク前にほんの少しだけ立ち寄った場所か?」 「あなたの過去は存じませんが、巨人族の神殿であることは間違いありません。何せ、普通の神殿より作りが単調ですからね。石製の柱と屋根しかないと、私も食べ物に困ります」 「あ、ああ……そうか」  食べ物のことしか考えていないカメは置いておいて、アクセルは兄に目をやった。  兄も甲羅の上から降り、神殿を見上げながら言った。 「うん、このシンプルな建物は巨人族の神殿だ。確かあの時は服がなくて、巨人族の顔見知り? にローブみたいな服をもらったんだよね」 「顔見知り……」 「ほら、戦士ヅラしてヴァルハラにいた問題児三人衆さ。名前は忘れちゃったけど、なんか獣を使役してた気がするよ」 「……ロシェか」  そう言えばそんな人もいたな……と、おぼろげに思い出す。正確にはウルフ、ビラク、ロシェの三人だ。  彼らに会ったのはヴァルハラに来てまだ日が浅い頃――見回り当番をしていた時だった。森の中で「落とし物をした」とかいう優男ロシェに会って、フレインの弟だからという理由でいろいろ罠にかけられたものだ。

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