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第2129話

 ハッとして、アクセルは少し手を引いた。  今までの経験上、これを穿り返したらロクなことにならない。こんな状態で生きているはずがないから、出てきたとしても間違いなく死体だろう。  だいたい何でこんなところに死体が隠されているのか、そもそもこれは誰なのかもわからない。下手に手を出したら、何やらとんでもないことに巻き込まれそうな気がする。  兄もいない状況で、これ以上掘り進めていいのかどうか……。 「ちょ、おい……!」  アクセルの逡巡を無視し、ヤドリギはひたすら蔓の中心を掻き分けている。このままアクセルが手を止めても、ヤドリギは止まってくれなさそうだった。  ――ああもう、どうにでもなれ……!  ほとんどヤケクソ気味に、アクセルは蔓の中心に手を突っ込んだ。  金髪の人物の腕(らしき部分)をぐっと掴み、渾身の力で無理矢理引きずり出す。  蔓が幾重にも絡まっていたので、引っ張り出すのもかなり大変だった。 「……って、え?」  引きずり出された人物を見て、驚愕に目を見開く。  兄に似た綺麗な金髪に、すらりとした体躯。見るものを和ませる容貌は、蔓にまみれていても輝くばかりに美しかった。  でも兄ではない。似ているけれど決定的に違う。  この人は……この人は、まさか……。 「バルドル、様……?」  容姿といい服装といい、自分が親しくしていたバルドルの特徴とぴったり一致する。  バルドルから譲り受けたヤドリギも、先程から心配そうに彼の身体を撫で回していた。 「な……何で……? 何でこんなところにバルドル様が……」  バルドルはアース神族の世界(アースガルズ)で暮らしているはずだ。困ったことがあったらいろいろ力を貸してもらっていたし、屋敷に遊びに行って食事をご馳走になったこともある。巨人族の神殿に閉じ込められていたなんてあり得ない。  では、ここにいるバルドルは一体何なのだ? 今までのバルドルは偽物だったとでもいうのか……? 「バ、バルドル様……」  恐る恐る声をかけたが、当然返事はない。  とにかくここに放置しておくわけにはいかないので、アクセルはバルドルの身体を背負った。

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