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第2133話
「そ、そうか……すごいな。帰ったらたくさんご飯あげないと」
兄が離れて行ったので、アクセルは再びバルドルの様子を注視することにした。
バルドルは相変わらず目を閉じたまま、静かに泉に浮いている。
――しかし本当にわけがわからないな……。何であんなところに囚われていたんだろう……。
高名な神が巨人族の世界にいたこともおかしいし、神殿の地下で殺されかけていたことも納得できない。
そもそも、ここにいるバルドルが本物なら、今まで自分たちが言葉を交わしてきたバルドルは一体誰だったのか。この分じゃホズだって本物かどうかわからないし、一体どこから偽物とすり替わっていたかも謎である。
バルドルが目覚めたらじっくり聞いてみるしかないけど、それにしてもあまりに不可解すぎて、もう何が何だか……。
「う……ん……」
「……!」
バルドルが再び小さく呻いた。まぶたがピクリと動き、長いまつ毛が震えて上下する。
「バルドル様……!」
薄く目を開き、ぼんやり虚空を見上げているバルドルに、アクセルは横から話しかけた。
「バルドル様、大丈夫ですか?」
「……あ……?」
「あっ、いいんです。今は何も喋らないで。完全回復するまで、しばらくうちでゆっくりしてください。ちなみにここはヴァルハラです」
「あ……」
「まだ自力じゃ歩けないですよね? 俺が背負っていきますんで、とりあえず家まで帰りますか」
「あ、アク、セ……げほっ、げほっ……」
「あああ、無理に喋らなくていいですって。俺のことは誰かわかってるんでしょう? 今はそれだけで十分です」
「…………」
「さ、行きましょう。家で兄がご飯用意して待ってますから、それで英気を養ってください」
アクセルは当たり前のようにバルドルを背負った。そのまま泉を離れ、我が家へ帰宅する。
「あ、り……がと……」
耳元でバルドルの囁きが聞こえた。擦れまくって非常に聞き取りづらかったが、それでも感謝の気持ちは伝わった。
「いえ、とんでもない。バルドル様には今までたくさんお世話になってきましたから」
こんな形でも、ささやかな恩返しになったなら嬉しい。
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