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第2137話

 そうとは知らず、自分たちは偽物のバルドルから偽の情報を掴まされていたというわけだ。魔法の知識が乏しいばかりに、情報の正誤が判断できず、言われたことを鵜呑みにしてしまった。  考えてみれば、透ノ国から抜け出せる……みたいな致命的欠陥を抱えた方法が、正式な封印方法なはずないよな……。 「それで……変身している者に心当たりはないですか?」  兄が核心部分に踏み込む。  バルドルは困ったように眉尻を下げ、視線を落として考えるような素振りを示した。  やがて、かなり迷いながらペンを走らせ、紙にこんなことを書いた。 『私を嫌っている神……というか厳密には巨人族だけど、一名だけ思い当たる者がいる』 「それって……」  アクセルは首をかしげた。  ――バルドル様を嫌っている者……? そんなヤツいるのか……?  バルドルは光の神と謳われるほど美しく優しい神で、最高神オーディンの愛息子という肩書きもある。嫌われる要素なんてどこにもない。  そんな人を気に食わないと思うのだとしたら、それはただの嫉妬だろう。 「……それ、ロキですか?」  兄が発した言葉を聞き、ぎょっと目を見開く。  ロキとは確か、オーディンと兄弟の契りを交わした巨人族出身の神だったはずだ。  一見すると陽気で饒舌な神だが、その実態はかなり狡猾で嫉妬深く、皆から愛されていたバルドルを「気に入らないから」という理由だけで殺してしまったこともある。  しかも自ら手を下すのではなく、当時はまだ目が見えなかったホズを騙してバルドル唯一の弱点ヤドリギを投げさせたのだから始末に負えない。  そのことが原因でラグナロクが始まったのだが、それ以来ロキの動向は知られていなかった。  アクセル自身もラグナロクを生き延びるのに精一杯だったから、ロキがどうなったかなんて今の今まですっかり忘れていたのだが……。 『でも、彼はラグナロクで死んだはずなんだ。今更出てくるなんておかしいよ』  と、バルドルが走り書きで反論してくる。  一方の兄は、ごく冷静に質問し返していた。

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