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第2138話

「死んだかどうかって、バルドル様は何故ご存じなんですか? バルドル様もラグナロク中は一度お亡くなりになって、ホズ様と一緒に死者の国にいたはずですよね?」 『その死者の国でロキの魂を見かけたからね。私を殺したことでオーディン(父上)が怒ったみたいで、魂の状態で永遠の拷問を受けさせられていたんだ』 「はあ、そうなんですか……。だとしたら……」 「今の混乱のどさくさで、復活したのかもしれんな」  ここで初めてジークが口を開いた。  ずっと黙って話を聞いてくれていた兄の友人たちも、やはり思うところがあるようだった。 「一時、魔剣士たちのやらかしで中堅ランカーがほぼ全滅したことがあっただろ。彼らの治療や復活のために、オーディン様の魔力を使いすぎちまった。その時に拷問の効力も弱まって、ロキが逃げ出しちまったのかもしれん」 「おそらくそうでしょうね。でなければ、拷問中に逃げ出せるとは思えません」  ユーベルも同調して頷いた。  なるほど、確かにその可能性が高そうだ。永遠の拷問から逃れる隙があるとしたら、拷問している側が弱った瞬間しかないだろう。  そう理解したところで、次は純粋な疑問が沸いてくる。 「……あれ? でもオーディン様の魔力が弱まったのって、魔剣士が中堅ランカーの住宅街をぶっ飛ばしたのが原因ですよね? てことはロキが自由になっちゃったのは、完全に偶然ってことですか?」 「さあ、どうかな。少なくとも私は、偶然とは思えないね」 「えっ……?」 「みんなはどう? この出来事、偶然だと思う?」  兄が友人たちを見回したら、ジークもユーベルも苦い顔で首を振った。 「偶然じゃないだろうな。なんなら、ヴァルキリーに入れ知恵して魔剣士をスカウトさせたのもロキかもしれんぞ。今のヴァルキリーはマジで何も考えてないからな。俺たちをおとなしくさせる方法と聞けば、ホイホイ乗っかるだろうよ」 「ええ。ヴァルキリーたちは我々を嫌っていますから、どんな方法でもいいからとりあえずおとなしくさせたかったという思考は想像できます」  ユーベルが上品に頬杖をついた。

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