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第2140話
「そんな理由で……?」
バルドルの話を聞いていたら、猛烈に腹が立ってきた。
そんな超個人的な感情のせいで、一体どれだけの人が犠牲になったと思っているのか。魔剣士との死合いで跡形もなく消し飛ばされた戦士もいるし、アロイスだって復活できるかできないかの瀬戸際だった。
住宅街が襲撃された時はチェイニーも重傷を負ったし、復旧のために資材も食料もずっと足りない状態が続いていた。最近ようやく市場が再開したものの、まだ完全に復興したとは言い難い。
バルドルだって何も悪いことしていないのに、幽閉されて殺されかけた。
これら一連の出来事が、全てロキの仕業だったと考えると腹の底から怒りを覚えてしまう。
「ほらお前、ちょっと落ち着きなさい。コーヒーでも飲んでさ」
無意識に拳を固めていたらしく、兄がそっと手を掴んでくれた。
コーヒーにミルクと砂糖を注ぎ込み、甘いカフェオレ状態にしてこちらに差し出してくる。
「怒りたくなる気持ちはわかる。でも、今ここで怒りを表明してもどうにもならない。一度冷静になって、みんなでこれからの対応を考えよう」
「……わかったよ……」
「んー、でも対応っていってもさー、結局僕たちは何をすればいいのー?」
ミューが何個目かのサンドイッチを手にする。みんなのために作った軽食なのに、既にミューだけで八割以上を食べてしまっていた。
「その、偽物のバルドル様……ロキだっけ? それを始末しちゃえばいい?」
「そう簡単な話でもなくね? ロキは今バルドル様に化けた状態で、アース神族の世界 のお屋敷にいるんだろ? 一緒にいるホズ様はどうなのかも気になるぞ」
「ジークの言う通りです。あのロキが、バレた後の対策を何も講じていないとは思えません。きっと何かしらの罠が仕掛けられているはずです」
「うーん……やっぱりそうだよね。こっそり屋敷に踏み入って、ロキだけ始末できれば楽だったんだけど」
兄も腕組みをして、しきりに考え込んでいる。
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