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第2149話

「さ、帰りましょう。暗いので足元に気を付けて」  そう促し、アクセルはバルドルの隣に回ってそっと背中に手を当てた。  バルドルは視線を落としながらも、今度こそ家に向かって歩いてくれた。 「ああ、おかえり……! バルドル様も、おかえりなさい」  家に着いた途端、兄が心底ホッとした顔で胸を撫で下ろした。  兄はホットミルクを作っておいてくれたらしく、マグカップにたっぷり注いで出してくれた。 「どうぞ、気分が落ち着きますよ」 「……ありがとう」  バルドルはゆっくりホットミルクを飲み干すと、長い溜息をついて静かに席を立った。  アクセルはバルドルを寝室に案内し、彼がしっかり寝たのを確認してからリビングに戻った。 「バルドル様、ちゃんと寝てくれた?」 「ああ。何だかんだお疲れだったんだろう、布団に入ったらすぐ寝入ってしまった」 「それはよかった。これで朝まで脱走の心配はないね」 「……そう言ってやるなよ。バルドル様だっていろいろ複雑なんだから」  そう窘めたのだが、兄はやや渋い顔でこう言った。 「わかってるよ。ただ、私としては結構ショックでね。バルドル様が出て行ったことに、何で気付けなかったんだろうって。玄関から出て行かれたら普通は気付いて当然なのに、それがわからなかったわけでしょ? よっぽど注意力が散漫しているんだなって痛感したよ」 「それは……」 「思えば、巨人の神殿に入った時もさ……。天井が崩れたら二人ともお終いなのに、何の備えもせずにそのまま入っちゃった。カメくんに忠告されていたにもかかわらず、結局お前と分断されちゃった。きっと正常な判断ができてなかったんだろうな……」 「いや、あそこはあれでよかったんだよ。もたもたしていたら、バルドル様を助けられなかったかもしれないし」 「それは結果論だよ。本来なら、自分たちの安全を確保した状態で探索しなければいけなかった」 「でも……」 「お前が後先考えない行動をとるのはいいよ? でも私まで同じようにしちゃダメなんだ。いざって時は私が止めないと、共倒れになっちゃう」

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