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第2154話

「もしかしたら来ないかもなーって、ケイジとお話してたんだよー。フレインに止められて出て来られないんじゃないかってさー」 「ご、ごめん……。でも何とか誤魔化してきたから」 「そっかー。上手くごまかせてるといいねー」  そう言って、ミューはケイジに「お土産のお饅頭ちょーだい」とおねだりした。  ケイジは当たり前のように蒸かしたての饅頭を箱に詰め、風呂敷に包んで渡してくれた。 「詳しい事情は知らぬが、くれぐれも油断せぬようにな」  と、ケイジが釘を刺してくる。 「世界には、思いもかけない事象が転がっている。目に見えるものだけが真実とは限らん。迷った時は、本来の目的に立ち返ってみることも重要だ」 「……!」 「では、健闘を祈る」  ケイジに見送られ、アクセルとミューは市場を離れた。  世界樹(ユグドラシル)を通り、目的の場所に向かいながら聞いてみる。 「なあミュー……ケイジ様に『バルドル様の屋敷に偵察に行く』って伝えたのか?」 「そこまでは言ってないよー。でもケイジのことだから、薄々気付いてたかもねー」 「そうか……」 「ま、そんなに心配いらないんじゃない? いざとなったらお饅頭投げつけて帰って来ればいいよー」  そんなことを言いつつ、大きな饅頭を食べ続けているミュー。  そうこうしているうちに、バルドルの屋敷が見えてきた。  念のためアクセルは、屋敷の様子が観察できる場所に隠れ、様子を窺った。  ――見た目はあまり変わってないな……。  表向きは何かがあったようには見えない。いつも通りの上品なお屋敷で、門も解放されている状態だった。「いつでもウェルカム」みたいな雰囲気が漂っているので、ついそのまま訪問したくなってしまう。 「ん……?」  不意に、屋敷の左右から若いヴァルキリーが二人現れた。  二人は門の前で合流すると五分ほどその場に立ち止まり、再び屋敷の壁に沿って歩いて行った。 「……なんだあれ? 巡回してるのか?」 「そうみたいだねー。二人でぐるっと屋敷の周りを一周してるのかなー?」 「これもロキの指示なのか……? 警備が増えてるとか、面倒な……」

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