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第2158話

「うわ、すごい……! あんな重い丸太を飛ばしちゃうなんて」 「基本的な念動魔法だよ。アース神族なら、子供でも使えるくらい簡単な魔法さ。きみたちで言う、素振りみたいなものかな」  バルドルが苦笑しながら言う。 「魔法陣を描くような魔法も試してみたけど、そっちはまだ上手くいかなくて。簡単な魔法しか使えないんだ。ごめんね」 「とんでもない。そういうシンプルな技術ほど、キッチリ使いこなすのは難しいものです。素振りもそうですけど、正確な場所に振り下ろすって結構テクニックいりますし」  かつてはアクセルも太刀筋がブレブレで、何度も丸太をダメにしたものだった。  おそらく念動魔法も同じだろう。自分の思い通りの場所に正確に物を飛ばすのは、かなり難しいに違いない。 「そんなことよりアクセル、おやつ作ってー。僕、お腹空いたー」  ミューが空気を読まず、こちらにおねだりしてくる。  アクセルが頷くより早く、兄が穏やかに微笑んだ。 「じゃあ、ちょっと早いけどお昼ご飯にしようか。お前、美味しいもの作ってあげて」 「えっ? あ、ああ……わかった」 「わーい! ご飯だー!」  ベランダから家に入り、早速キッチンで食事の準備をする。  今日の収穫をどのタイミングで報告しようか……と考えあぐねていると、兄もキッチンに入ってきた。何だか嫌な予感がした。 「……で? 本当はどこに行ってたの?」 「えっ……!?」 「私に嘘をついてまでミューと出掛けた場所って、どこ?」  至近距離で詰められて、背筋に冷たいものが走った。ぞくっと血が震え、腹の底からじわじわと恐怖が這い上がってくる。  ――やばい……。俺、死ぬかもしれない……。  本気でキレた兄は、アクセルの手に負えない。  ある程度のお仕置きは覚悟していたけれど、これはお仕置きレベルでは済まないかもしれない。  さすがにここで嘘をつく度胸はなく、アクセルは擦れた声で答えた。 「……バルドル様のお屋敷、です……」 「お屋敷? 本当にそんなところに行ってたの?」 「は、はい……。今どうなってるか、偵察しておきたくて……。敵の動きがわからないんじゃ、こっちも手の打ちようがないから……」 「…………」

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