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第2160話
アクセルの全身から血の気が引いた。暗に「お前はもう弟じゃない」と言われているみたいで、心臓が抉られるように痛んだ。
「ま、待って! 待ってくれ兄上、お願いだ……!」
這いつくばりながら、何とか兄の脚を掴む。
「悪いことをしたのはわかってる……! お仕置きも覚悟してた……! 今度からはちゃんと兄上にも相談するから、だからそれは……それだけは……」
「……学習しない子だな。そうやって旗色が悪くなったらいつも泣いて縋りついて、私が折れるのを待ってるだろう? そういうところ、ホントに甘ったれでイライラする」
「っ……」
「お前は今まで一度たりとも、自分がやったことの責任を取ったことがないんだよ。ピンチの尻拭いはいつも他人任せで、その後『ごめんなさい、ありがとう』って言えばいいと思ってる。そんな子、もう面倒見切れないね」
「っ……そん、な……」
「……何でこんな子になっちゃったんだろう。育て方を間違えたのかな。私は私なりにちゃんと愛情を注いで大切にしてきたつもりだったのに……残念だよ」
「……!」
一瞬、息ができなくなった。兄から明確な「見限り」の言葉が出てきて、目の前が真っ暗になった。
声も出せず、全身に力が入らず、兄の脚を掴んでいた手がぱたりと床に落ちてしまう。
完全に打ちのめされ、起き上がる気力すらなくなってきた。
――兄上……。
とうとう見捨てられてしまうのか。
自分はただ早く平和なヴァルハラにしたくて、その一心でちょっと偵察に出掛けただけなのに、どうして……。
「待ってフレイン、そんなに怒らないで」
その時、バルドルがキッチンに入ってきた。
立ち去ろうとする兄・フレインの前に立ち、仲裁に入ってくれる。
「私が頼んだんだよ。危険だとわかってたけど、アクセルに行ってもらったんだ。ホズの安否が心配だったから、屋敷がどうなっているか探ってもらいたかったんだ」
「……!」
これは嘘である。バルドルには偵察に行くことを伝えただけで、行くことを決めたのはアクセル自身だ。
ただ、バルドルも「自分のせいでこんなことに」という負い目があるから、それで兄弟喧嘩に発展するのは見ていられなかったのだろう。
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