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第2170話

「じゃあ私はハチミツ入りレモン水? 作ってこようかな。レモン水にハチミツ入れればいいんだよね?」 「そうです。けど、ハチミツ入れすぎると溶け残るんで気をつけてください」  バルドルがキッチンに入っていったのを確認し、アクセルはぼんやりと兄の様子を眺めた。  兄はミューとピピを置いて、一人で黙々と庭を何周もしている。  ――明日には許してくれるといいんだけどな……。  喧嘩していなければ、一緒に楽しく鍛錬できたのに……今はあまり近づけない。余計なことをして、不要な怒りを買ってしまったら最悪だ。  全部自分が悪いのだから、自業自得と言われればそれまでだけど……。 「面倒な兄弟ですね、あなた達は」  ベランダの寝床で丸くなっていたカメが、呆れたように欠伸(あくび)をした。 「私からすれば、何でギスギスしているのか理解不能です。あまり雰囲気が悪いと、ご飯も不味くなるので早く仲直りしてくれませんか」 「う、うん……ごめんな。明日までの辛抱だから、もう少し待ってくれ」 「というか、何をそんなに揉めているんです? お互い無事なのだから、それでいいじゃありませんか」 「それじゃダメな時もあるんだよ。結果的に運よく無事だっただけで、次同じことをしたら無事じゃ済まない可能性もあるし」  そう言ったら、カメは更に呆れたようにふんす、と鼻を鳴らした。 「そんなものは当たり前でしょう。前回無事だったから、今回も無事でいられるとは限りません。ふとした拍子に起こる不運によって、あっさりと命を落とすことだってあるのです。あなたも戦士の端くれなのだから、それくらい知っているでしょう」 「あ、ああ……そうだな……」 「生きているというのは、それだけで幸運の証なのです。それなのにあなた達人間は、どんどん贅沢になっていくから困ります。美味しい食べ物、心地いい寝床、敵に襲われない環境……それだけで十分だというのに、何が不満なのやら」 「……すみません……」

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