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第2171話(アクセル~フレイン視点)
さすがに、長寿のカメに言われると説得力が違う。「生きること」の厳しさを、その身をもって体現しているようだ。よく見れば、甲羅の至るところに細かい傷がついている。
――このカメ、一体何年生きてるんだろうな……。
アクセルには想像もつかないが、それだけ経験豊富ならば自分たちのトラブルなどごく些細なことなのだろう。
いつかその境地に達することができればいいが……などと思いつつ、アクセルは腰を上げた。休憩したので、次は素振りでもしよう。
***
その夜。フレインは一人リビングでホットミルクを味わっていた。
「ええと……兄上、今日はどこで寝る?」
弟が遠慮がちに聞いてきたので、フレインは短く答えた。
「今日は私がこっちのソファーで寝るよ。お前は私のベッドを使いなさい」
「は……はい……」
「それじゃ、おやすみ」
それだけ言って、フレインはリビングに残った。
弟はまだ何か言いたげだったが、チラリとこちらの様子を窺っただけで素直に寝室に消えて行った。
――どうしようかな……本当に。
頭はだいぶ冷静になっている。気持ちの面ではとっくに許しているし、いつものように仲のいい生活に戻りたいとも思っている。弟が遠慮した態度をとってくるのもなんだか不憫になってきたし、シャワー浴びながらこっそり泣いているんだろうなと思ったら、いい加減自分も大人気なくなってきた。
ただ、反面「これでいいのか」という葛藤があるのも事実である。
今許したら、また弟を甘やかすことにならないか。いつかまた同じようなことをやらかすのではないか。何の学習もしないまま、危機意識の薄い状態で無鉄砲なことをしやしないか。そのことを懸念しているのだ。
――私だって、いつも駆けつけられるわけじゃないんだから……。
これは再三言い続けてきたことだ。
私の身体はひとつしかないし、エスパーでもない。お前がピンチになっていてもわからないし、気付いたとしても間に合わないことだってある。だからお前もなるべく気をつけて、危険なことは極力避けなさいよ……と。
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