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第2179話
「……そうかも。まあ、作戦については後でじっくり検討しよう。それで、屋敷の中には入れなかったんだよね?」
「ええ、さすがにそれは……。裏口があるならそこから入れた気もしますけど……」
「一応裏口はあるよ。でも入らなくてよかった。屋敷内に突入するのは、いくら何でも危険すぎるからね」
チラリと兄を見たら、兄は刺すような視線をこちらに向けていた。目を光らせているつもりなんだろうか、ちょっと冷や汗が出そうになった。
「しかし、屋敷の中の様子は気になるな。少し魔法を試してみてもいいかい?」
「ええ、もちろん」
「ありがとう。じゃあ黒っぽいお皿を貸してくれるかな。そこに水を張って持ってきて」
言われた通り、アクセルはキッチンから黒い皿を探し出した。
そこに浅く水を張り、バルドルの前に置く。
この状態だと、水面は覗き込む自分たちと天井を映し出しているだけで、特に変わった様子はない。
「上手く見えるといいんだけど……」
バルドルが皿の上に手をかざし、水面を撫でるように何度か動かした。
すると水面がさざ波立ち、それまでとは違う景色を映し出した。
暗くてやや見えにくいが、それはどこかの屋敷内のようだった。
「バルドル様、これは……」
「よかった、見えた。……これはうちの食堂かな?」
アクセルは食い入るように水面を見つめた。
バルドルの屋敷で生活していた時、よく利用していた場所だ。
椅子やテーブル上の装飾品は一部変わっている気がするが、基本的な内装は特に変化していない。
屋敷内は安全ということだろうか……?
「あっ、ロキ……!」
バルドルの姿をしたロキが、食堂に入ってきた。
彼は我が物顔で厨房を掻き回すと、パンとチーズ、ワインを持って一人で食堂の椅子に座った。ホズはいないようだった。
――食事か? 堂々としたものだな……。
半分呆れながら様子を見ていたら、不意にロキが変身を解いた。
金髪碧眼の美しい姿から、それとは似ても似つかない外見に変貌する。
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