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第2184話

 空いているものもあるにはあったが、サイズが小さすぎてミューくらいの戦士でないと使えないものだったり、そもそも古すぎて壊れかけている棺ばかりだった。  普通の棺は、ほぼ満員状態であるようだ。 「はあ……これはすごいな。こんなにたくさん棺があったのか」  バルドルは、どこか感心したように溜息を漏らした。 「最高神オーディン(父上)は私たちとは別格の存在だけど、それにしてもこの数は……本当にすごい」 「え? これってそんなにすごいんですか?」 「すごいも何も……ここの棺、全部で三〇基以上あるよね? それだけの戦士を一度に復活させられるって、とんでもないことだよ。全盛期の私でも、絶対無理だもの」 「そ、そうなんですか? 俺たち、当たり前に使ってたからすごいかどうかもわからなくて」 「死者蘇生って、魔法の中でもかなり高度な術なんだ。普通の神には使えない。使えたとしてもせいぜい一人が限界だし、不完全な復活になっちゃうことも多いんだよ。父上だからこそできる芸当だろうね」 「はあ……そうだったんですか。全然知らなかった……」 「だけど、その父上もこんな一気に棺を使われたら魔力が枯渇して当然かも……」  と、バルドルが視線を落とす。 「ロキが拷問から抜け出したってのを聞いた時、ちょっと変だなと思ったんだ。いつもの父上ならそんなヘマはしないし、そもそも抜け出せるようなヤワな拷問は仕掛けない。魔力が枯渇したからこそ、ロキに脱出の隙を与えてしまったんだろうね。そして、それを枯渇させるよう仕向けたのはロキだったと……」 「そう、なんですよね……」 「私たちは最初から、ロキの手のひらで踊らされていたってことか……。何だか悔しいな……」  バルドルが落ち込み始めたので、アクセルは慌てて彼の背中を押した。  せっかく気晴らしに散歩に出てきたのに、落ち込んでは意味がない。 「さ、もう行きましょう。例え踊らされていたとしても、俺たちにもできることはあるはずです。バルドル様の調子だって、もう少しで戻りますよ」

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