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第2185話
館から離れ、市場に向かう。
以前と市場と比べると六割くらいの店が再開しており、食品だけでなく家具や衣類を売っている店も増えてきた。
この調子で元の状態に戻ったら、基本的な生活には困らなくなるだろう。
ロキがヴァルハラに手を出してこなければ……の話だが。
「……む、弟君か」
ケイジの饅頭屋の前を通りかかった時、店じまいをしている彼に声をかけられた。そういえばミューと偵察に行く前、彼から饅頭セットを差し入れにもらったんだった。
「ケイジ様、こんにちは。先日はどうもありがとうございます」
「うむ、無事に帰ってこられたようで何よりだ。……これから修行場に行くのだが、弟君もどうだ?」
「あ、いや……今日は遠慮しておきます。あまり遠くに行くと兄が心配するんで」
「そうか。……時に、そちらの方は? 見慣れぬ御人だな」
ケイジが視線をバルドルに移す。
ああ、なるほど。ケイジはバルドルに会ったことがないのか。
アクセルは軽くバルドルを紹介した。見た目と雰囲気が兄・フレインと似ているから、初対面の人にはややわかりにくいかもしれない。
案の定ケイジは「ふむ」と腕組みをし、こんなことを言い出した。
「そうであったか。てっきり、フレイン殿に似た者と逢引しているのかと思った」
「あ、逢引!? そんな、違いますよ……! 俺なんかがバルドル様と逢引とか、バルドル様にも失礼です」
「別に失礼にはならないけどな。むしろアクセルとなら、いっぱいデートしたいかも。いろんなところに行って、楽しい思い出作りたいね」
「……バルドル様、あまりそういうこと言わないでください。ホズ様に怒られます」
いつぞやホズも「バルドル は誰にでも思わせぶりなことをするから、勘違いする者がいて困る」みたいなことをボヤいていた。
今でこそ兄・フレインも友人と一対一で遊ぶことはやめてくれたけど、昔は何かと理由をつけて浮気っぽいことを繰り返していたものだ。
姿かたちが似るのはいいが、浮気癖まで似ないで欲しかったなぁ……などと思うばかりである。
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