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第2211話

 ――といっても、怪しいところなんて見当たらないんだが……。  これだけ乱雑に本が散らばっていると、仮にそこが怪しくても見逃してしまいそうである。  これが全巻ピシッと整列している本棚だったら、背表紙の番号がズレているとか、違う本が紛れ込んでいるとか、そういう怪しさに気付くんだけどな……。 「……?」  本棚に「笑える魔法の絵本」というものが並んでいるのを見つけて、「おや」と思った。  ――絵本? こんなの、バルドル様の書庫にあったっけ……?  バルドルは、魔道書などの難しい本を好んでいる。子供向けの絵本など持っているイメージはないし、「笑える~」というタイトルにも違和感があった。  それとも、自分が知らないだけでバルドルはこういう本も好きなのだろうか。  まあ、とんでもないアダルト本をコレクションしているより健全だけど……。  試しにアクセルはその絵本を取り出し、パラパラと眺めてみることにした。  だがその絵本を開いて目を落とした次の瞬間、腹部に焼け付くような衝撃を受けた。 「ぐっ……!」  一拍遅れて、知り尽くした痛みが襲ってくる。  見れば鳩尾の少し下辺りに、短剣がぐさりと突き刺さっていた。いきなりすぎて、反応することもできなかった。  何なんだ、この古典的な罠は。 「おい大丈夫か!?」  声を聞き付け、ジークが駆け寄ってきた。  アクセルは脂汗をかきつつ、何とか答えてみせた。 「す、すみません……油断しました……」 「うわっ……これはひどい……。ちょっと待って、今治してあげるからね」  バルドルが腹部に魔法をかけながら、刺さった短剣を抜いてくれる。  抜いたら出血がひどくなるかなと思ったが、ほんの一瞬血が噴き出しただけですぐに傷が塞がった。これも治癒魔法のおかげか。 「あ……ありがとうございます、助かりました」 「大丈夫かい? 他に痛むところはない?」 「大丈夫です。ご心配をおかけしました」  バルドルから先程の短剣を預かり、小太刀と一緒に腰に装備する。もしロキに会ったら、真っ先にこの短剣を投げつけてやろう。

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