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第2217話

 唐突に獣のような唸り声が聞こえて、アクセルはハッとそちらに目をやった。  またもや大樹の奥から何かが現れる。  それは、肉の塊と言っても差し支えない化け物だった。いつぞや透ノ国の地下施設で対峙した、最高傑作の肉塊に近い造形をしていた。  自力では歩くことも困難らしく、よたよたと転がるようにこちらに近づいてくる。 「バルドル様、ホズ様、下がってください!」  アクセルは急いで小太刀を抜き放ち、その化け物に対峙した。  ――何だ、こいつは……! とにかく何とかしないと……!  こんなところに現れる化け物だ。そのまま切りかかっていいかわからない。  だけど放っておくわけにもいかない。少なくとも、バルドルたちへの接触は阻止しなくては。 「止まれ! そこから動くな! それ以上近づいたら斬る!」 「ア……グ、ェ……お、え……ァあ……」  耳障りな呻き声が鼓膜を震わせる。  言葉は喋れないらしく、こちらの言っていることを理解しているかどうかも怪しかった。  怒鳴りつけたことで一応その場に留まってはくれたが、未だに呻きながらもぞもぞと動き続けている。 「ジーク様、どうしましょう……」 「どうもこうも……あいつを倒せば、庭園の罠も消えるんじゃないのか?」 「そうかもしれないですけど、そのまま切っちゃって大丈夫ですかね……? あの手の怪物って、切った時に体液飛び散ってエラいことになった覚えが……」 「んなもん、体液がかからないように上手く斬りゃいいだけのことだろ。弟くん、返り血浴びずに斬ったことないのか?」  ……申し訳ないが、全くない。気付いたらいつも全身ドロドロで、顔も衣装も血に汚れてしまう。  ――それはともかく、何となく嫌な予感がするんだよな……。  上手く説明できないけど、この化け物はそのまま切ってはいけないような気がする。  何か取り返しのつかない間違いに発展しそうな、そんな予感が頭で警告を発している。 「ハアッ!」  ジークが長槍のリーチを生かし、ぐさりと化け物を正面から突き刺した。  ぐちゃっ、と肉が潰れたような音がして、赤い体液が飛び散った。

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