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第2234話

「お前は仮眠してたけど、私はずっと起きてたからね」 「……あ」  しまった、そうだった。  何なら兄はずっと正門でヴァルキリーたちと戦っていたから、アクセルよりずっと疲れているはずだ。できれば寝心地のいいベッドに入りたかっただろう。  それを何も考えず断ってしまって、アクセルは猛烈な罪悪感に襲われた。 「ご、ごめん……。あの、それなら今日は兄上がソファー使ってくれ。俺はそんなに眠くないから」 「うん、そうする。お前は床に布団敷いて寝てね。……それじゃ、おやすみ」  結局兄はホットミルクも飲まず、ソファーに倒れ込んでしまった。  そのまま一分もしないうちに寝息が聞こえ始めたので、本当に体力的に限界だったんだなと思い知る。  ――うう……兄上、本当にごめん……。  アクセルはソファーのクッションを就寝用に並べ直し、兄を綺麗に寝かせてその上から掛布団をかけた。これで少しは快適に眠れるだろう。 「兄上……」  兄の寝顔は穏やかなものである。バルドル達と一緒に泉に入っていたので、顔などに細かい切り傷もない。  だけど、よくよく考えたら兄が死んでしまう可能性もあったのだ。  警備に当たっていたヴァルキリーがたまたま強くなかっただけで、あれだけ多勢に無勢だったら数の暴力で押し切られていてもおかしくなかった。  そうなっていたら兄は今ここで寝ていないし、冷たい棺で復活を待つ状態になっていただろう。  いや……下手したら、身体をズタズタにされて回収もままならない状態になっていた可能性すらある。  そう考えると、こうして静かに眠っていられるのは奇跡に近いのかもしれない。 「……あなたも、無事でよかった」  アクセルはそっと兄の頬を撫でた。  つるりとした肌触りと、人間らしい温もりが心地よかった。 「愛してるよ、兄上……。これからもずっと、一緒にいような」  軽く頬にキスを落としてから、ソファーの隣に敷布団を引っ張ってくる。  そして余ったクッションを枕替わりにし、タオルケットにくるまって目を閉じた。  なかなか寝付けなかったけど、暗い中で目を閉じていたらいつの間にか眠っていた。

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