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第2253話

「ほら、早くしろ。それとも、俺が背中を押してやろうか?」  魔剣士たちは、全員手錠をされてそれが数珠つなぎに繋がれている。一人が落ちれば、芋づる式に落下していくだろう。  一人一人順番に落とされるのではなく、全員同時に落下できるのでまだ恐怖は少ないと思うが。  ――俺も兄上と手を繋いで落ちたことあるしな。そうでもしないと恐いし。  そんなことを他人事のように考えていたら、 「……うわっ!」  痺れを切らしたのか、兄が一人の魔剣士を谷底に突き落とした。  それで数珠つなぎにボロボロ魔剣士が落ちていき、彼らの悲鳴がこだました。 「ぎゃあああぁ――……!」  魔剣士たちの悲鳴が、輪唱のように深い大渓谷に吸い込まれていく。  最後の一人が落ちて行き、姿が見えなくなった後も谷底から悲鳴がこだましていた。  そこから数分待ち、ようやく何も聞こえなくなったところでアクセルは言った。 「あいつら、無事に『透ノ国』に行けたかな」 「いや、無理だと思うよ」 「……え? 何でだ?」 「だって、あんな大声で叫んでるんだもの。実際に落ちてみるとわかるけど、落ちている最中って風圧がすごくて息ができないんだよね。あんなことしてたら、すぐに酸素がなくなって窒息しちゃうよ」 「それは……まあ、そうかもしれないが……」 「上手く落ちるにもコツがいるってこと。あいつらがそんなコツを知っているとも思えないから、透ノ国に落ちる頃にはみんな窒息死してるんじゃないかな」 「……いいのか、それで? それじゃただの処刑になっちゃうんだが」 「いいんだよ。元より、ヴァルハラに来る資格もないただの村人だ。本来あるべき場所に帰っただけさ」 「はあ、そういうものなのかな……」  ちょっとモヤったものの、確かに彼らは、本来ならヴァルハラに招かれることなく天に召されていた普通の人間である。  あるべき場所に帰っただけというのはある意味正しいし、他に行くところもないのだからこれでよかったのかもしれない。  運よく透ノ国に行けたらそこで暮らしていけるだろうし、大勢の中堅ランカーを殺してヴァルハラをめちゃくちゃにした罪を考えれば、かなり優しい結果だと思う。

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