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第2257話
再び帰宅すると既に兄も戻っていて、キッチンで大きな塊肉を捌いているところだった。
「……兄上、何してるんだ?」
「嬉しいことがあったから、大急ぎでステーキ肉を買ってきたのさ。今夜は分厚いステーキだよ」
「嬉しいこと……って」
「私たち、やっと公式死合いで戦えることになったんでしょ? しかも開幕一戦目だっていうじゃないか。これ以上なく嬉しい話だよね」
そんなことをサラッと言われ、アクセルは目を丸くした。
何で知っているのかと問う前に、兄は塊肉を切りながら答えてくれた。
「留守番してたらミューが散歩がてらうちに来てね、観戦チケットをねだられたの。『フレインとアクセルの死合いなんて人気に決まってるから、ロイヤルボックス確保しといてくれない?』ってさ」
「あ、ああ……そういうことか」
「そう。確かに私たち、ヴァルハラではそこそこ有名な兄弟だもんね。それが再開の第一死合いになるんだったら、人が押し寄せるに決まってる。当人であってもロイヤルボックス押さえられるか、怪しいもんだよ」
「そうだな……。バルドル様も観戦するって言ってたし、結構なプレッシャーかもしれない」
「余計なこと考える必要はないよ。どうせ当日は観客がどれだけ入ったかなんて、目に入らない。すぐにお互いしか感じられなくなるさ」
塊肉をザクッと二センチくらいの厚みに切ったところで、兄は一度包丁を置いた。
そしてさも嬉しそうな笑みを湛えつつ、雄っぽい犬歯をちらりと覗かせてきた。
「今度はすぐにやられないでね。お前の血も肉も命も、全部私のものだから。お前の全てを私に見せて」
「もちろん、望むところだ。俺の全てを、あなたにぶつけてやる」
そう言ったら、兄は満足げに微笑んだ。
そしてぐいっと片腕だけで引き寄せられ、軽く唇にキスされた。挨拶程度の軽いものだったが、それだけでもぞわわっと全身に鳥肌が立つ。
「じゃ……じゃあ俺、庭で鍛錬してくるよ。死合いまでにコンディションを整えておきたいからな」
「それはいいね。私も後で参加しようかな」
そう言って兄は、ステーキ肉の切り分け作業に戻った。
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