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第2259話

 スタジアムの戦士専用出入口から中に入り、控室に向かう。  対戦相手と同じ控室を使うことはないので、一人で軽く準備体操をして過ごした。 「すぅ……はー……すぅ……はー……」  その間、何度も深呼吸して暴走しそうな気持ちを抑える。  先程から身体の震えが止まらない。  家を出る時は大丈夫だったのだが、死合いの開始時間が近づくにつれて武者震いが治まらなくなってきたのだ。ぞくぞくした痺れが背中から這い上がり、何もしなくても自然と狂戦士モードに突入してしまいそうである。  ――イカン……もう少し落ち着かなくては……。  興奮してしまうのは仕方ないにせよ、せめて死合い開始の合図があるまでは我慢しなくては。今から狂戦士モードに突入とか、フライングにも程がある。  準備体操で気を紛らわせていたら、いよいよ時間になり闘技場に通された。  観客席は案の定満席で、ボックス席にすら大勢の戦士が押し寄せている。席に座れずに立ち見をしている人もたくさんいたし、スタジアムの外からも大歓声が聞こえていた。  ――この感覚、久しぶりだな……。  自分の声すら聞こえないほどの声援。興奮で足を踏み鳴らしている音。観客の興奮が空気を震わせビリビリとこちらに伝わってきて、アクセル自身も熱が高まってきた。  小太刀の柄を握り締めていると、闘技場の反対側から兄が入場してきた。  白ベースの衣装の腰に愛用の太刀を下げ、片マントを優雅にはためかせている。銀杏(いちょう)色の金髪が陽の光に照らされて美しく煌めいていた。 「兄上……」  言いようのない感動を覚え、アクセルはうっとりと兄を眺めた。  見慣れた兄の姿も、戦士の歓声を浴びながら闘技場で見るとまた違った印象を受ける。  戦士として憧れ続け、少しでも兄に近づきたいと思い、長年コツコツ努力してきた。いつか兄と死合うことを夢見て、いろんな障害を乗り越えてきた。  その夢が今、自分の目の前で現実になろうとしている。  始まる前から得も言われぬ感情が湧いて来て、思わず目頭が熱くなってきた。

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