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第2260話
「えー……コホン。ではただいまより、フレインVSアクセルの公式死合いを行います」
アナウンスの声が天から降ってくる。
だがヴァルキリーの声ではなく、聞き覚えのある男性の声だった。
この声はもしかして……。
「僭越ながら、死合い進行役はオレ、チェイニーが勤めさせていただきます。……あ、ちなみにこの仕事はみんなに平等に回ってくるらしいので、そこんとこよろしくお願いします」
チェイニーの言葉に、少し目が丸くなる。
そうか、これからは死合いのアナウンスも自分たちでやらないといけないのか。
どちらか一方の肩を持つことのないよう、公平な目でアナウンスしたいところだ。
「では死合い開始前に、バルドル様から一言ご挨拶を頂戴します」
チェイニーの声の後、穏やかでおっとりした男性の声に切り替わった。
「初めましての人も多いだろうけど、私はバルドル。ヴァルキリー達に替わって、新しくヴァルハラの管理者になったよ。以後お見知りおきを」
アクセルはボックス席の更に上、特別観覧席に目をやった。
神しか使うことを許されない神族専用席は、人口密度の高い他の席と違い、バルドルとホズしかいない。彼らは悠々と会場全体を眺めており、高みからこちらを見物していた。
バルドルはよく通る声で続けた。
「……といっても、長い挨拶は退屈でしかない。細かいお知らせは全部後回しにしよう。みんなも待ちきれないだろうしね」
「……!」
「さあ戦士たち、神をも魅了する最高の死合いを見せておくれ」
まるで自分たちに呼びかけられている言葉に、腹の底から血が沸騰してきた。
会場全体も歓喜にどよめき、「早く始めろ」と言わんばかりに地団駄を踏み始める者も出て来る。
アクセルは改めて兄に視線を映した。兄は満足げに微笑んでいた。
「えー……それでは両者、初期位置に立ってください。一〇秒後に死合いを開始します」
チェイニーのカウントダウンが始まる。
アクセルはひとつ深呼吸をして初期位置についた。そして真っ直ぐ兄を見つめた。
――やっとあなたと死合えるよ、兄上。
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