2261 / 2296

第2261話

 周囲の気配がだんだんと掻き消されて行く。兄のことしか目に入らなくなる。  大歓声ですら聞こえなくなり、代わりに兄の心の声が直接鼓膜を震わせてきた。  ――うん、私も楽しみにしていた。どこからでもかかっておいで。  兄がすっ……と愛刀に手をかけた。アクセルも二振りの小太刀を掴んだ。 「三……二……一……、ファイト!」  合図と共に、アクセルは飛び出した。  愛用の小太刀を抜きながら突進し、兄に向かって斬りかかる。 「たあああぁっ!」  微笑みながら、兄も抜刀してきた。  当たり前のように太刀を振り抜き、二振りの小太刀を受け止めてくる。  ガキン、と金属同士がぶつかり合う音がして、一瞬明るい火花が散った。  続けざま更に間合いに踏み込み、追撃の十字切りを繰り出す。  真上と横から同時に薙ぎ払う斬撃も、兄の長い太刀に器用に受けられ、そのままぐぐっ……と押し切られそうになった。  両手で必死につばぜり合いしつつ、至近距離で兄に言う。 「……さすが兄上。この程度じゃ傷ひとつつけられないか」 「ふふ、先に一撃もらうわけにはいかないからね」  兄が太刀をスライドさせ、ガチン、とこちらの小太刀を跳ね上げてくる。  そして真正面から勢いよく太刀を振り下ろしてきた。 「くっ……!」  防御は間に合わないと直感で判断し、サッと身を引いてその場から後退する。  自分の目と鼻の先を太刀の切っ先が通過していき、振り下ろした風圧で前髪が少し千切れた。  間髪入れず横から太刀を薙ぎ払われ、小太刀二振りで防ごうと試みる。  小気味のいい金属音がして、受け止めた衝撃がビリビリと掌に伝わってきた。 「重い……!」 「そりゃそうさ。お兄ちゃんの斬撃を舐めちゃいけないよ」  雄々しく口角を上げ、チラリと犬歯を覗かせてくる。  言うやいなや、力ずくで小太刀を弾き上げられ、胴体ごとスパッと切られそうになった。  アクセルはパッと空中に跳んで避け、兄の背後に回った。  ――腕力じゃ、あなたに敵わないのはわかってるんだ……。

ともだちにシェアしよう!