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第2267話※

 唇から顎に伝い落ちてきた血を、舌を伸ばして舐めとる。濃厚な兄の味がして、思わず恍惚とした表情を浮かべた。  ああ、なんて美味……なんて幸せ……嬉しい、嬉しい……。 「こら、がっつきすぎだよ。戻っておいで」 「っ……うっ!」  血の味に酩酊していたら、噛みつかれるように兄に唇を塞がれた。  ぎょっと目を見開いていると、吐いた血を直接喉に流し込まれ、あまりの濃厚さに噎せ返ってしまう。 「ぐ、ごほっ! がはっ……!」  息が出来ずに激しく咳き込み、よろよろと兄から離れた。  片膝をついて肩を震わせ、ぜぇぜぇ……と呼吸を繰り返す。  ――あ、あれ……? 俺は……。  酸素を脳に取り込むにつれて、徐々に思考が冷静になっていった。  狂戦士モードは継続中だが、それはそれとして頭がクリアになってくる。  あれ? 俺は何をしていたんだっけ? 覚醒したはいいけど、その後はあまりに興奮しすぎてよく覚えていない。  兄を攻めまくっていたことは確かだが、なんか口の中が血でドロドロになっているし……。  はたと顔を上げたら、兄がやや呆れながらこちらを見下ろしてきた。 「まったくもう、だから少し落ち着きなさいって言ったのに」 「え……?」 「狂ったように戦うのは楽しいけど、我々はあくまで戦士(エインヘリヤル)だ。獣じゃない。そこを忘れちゃいけないよ」 「……!」  ああ、そうだった。  狂戦士モードは戦士(エインヘリヤル)の特権だけど、我を忘れると獣化してしまうんだった。  先程までの自分は兄と戦える嬉しさのあまり、完全に周りが見えなくなっていたようだ。あのまま戦い続けていたら、遅かれ早かれ獣化してしまっていただろう。  アクセルはゆっくりと立ち上がり、謝罪した。 「すまない、兄上……。俺が未熟なせいで、面倒をかけてしまって……」 「いいよ。お前のことだ、私と死合えるのが楽しくてたまらなかったんだろう? 私も楽しいから、気持ちはよくわかる」  ぐぐっ……と兄が刺さったままの小太刀を引き抜く。  夥しい量の血が噴き出してきたが、覚醒した兄はその程度では微動だにしなかった。

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