2268 / 2296

第2268話※

「本当に、ヴァルハラは最高だね。こんなにボロボロになっても、まだ立っていられる。死ぬのを恐れず、最期まで全力で戦える。これだから戦士(エインヘリヤル)はやめられないんだ」  抜いた小太刀をこちらに差し出してくる兄。  兄の返り血が顔に降りかかってきて、興奮と同時に相手への心配も芽生えてきた。  アクセルは深呼吸をして立ち上がり、小太刀の柄を掴んだ。 「ありがとう、兄上……。でもその身体では……」 「大丈夫、この程度では倒れないよ。胸を一突きされた程度で負けてちゃ、トップランカーの名折れだもの」 「……!」 「さあ、お前も正気に戻ったことだし、改めて死合おうか。私もまだまだ斬り足りないからね。こんなところで終わるのはもったいないよ」 「あ……」  片マントでこちらの顔を拭き、にこりと微笑んでくる兄。  そんな兄を見たら、どうしようもなく胸が高鳴ってしまった。  感情が昂って熱い涙が溢れ出し、血に濡れた頬を洗い流していく。 「ど、どうしよう……俺……もう、兄上のことが好きで好きでしょうがない……。今が幸せすぎて、また自分を抑えられなくなりそう……」 「ふふ、安心して。もしお前が暴走したら、また私が止めてあげる。だからお前は、存分に力を発揮するといい。全力でかかってきなさい」 「兄上……」  ぐすん、と鼻をすすり上げる。  そう言ってくれるのは嬉しい。兄がいてくれれば、アクセルは何の不安もなく純粋に死合いを楽しめる。例え暴走しても、兄ならこちらが獣化する前に絶対止めてくれるだろう。  ――でも……この怪我では、兄上も長くは……。  元気に振る舞っているが、兄の顔色はいつもより青白い。  これだけ出血していれば血が足りなくなるのは当然だし、ダメージだってかなりのものだろう。自分でやっておいてなんだが、痛々しくてたまらない。  獣化を止めるための負傷だから、これはノーカンにしてくれないだろうか。この状態で兄に勝ったとしても、素直に喜べないのだが……。 「えー……突然ですが、ここでバルドル様より『タイム』が入りました」

ともだちにシェアしよう!