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第2271話※
でも、恐ろしいとは思わない。
「俺も、あなたと全力で戦えて……あなたの全力を一番近くで見られて、本当に幸せだ」
鞘を急いで右脚に括り付けながら、ごくりと喉を鳴らす。
斬られることなんて怖くない。痛みも感じないし、死ぬことだって何とも思わない。
それよりも、兄がずっとこちらを見てくれていることが嬉しかった。
お互いにお互いのことしか見えず、全力を出し尽くし、命が尽きるまで派手に斬り合う。そこに遠慮はない。
四肢が欠けようと、首が飛ぼうと、死んで動けなくなるまで死合いは続く。
まさに至福の時間。ヴァルハラに来た者だけの特権だ。
アクセルはもう一度小太刀を握り直した。
兄も太刀を構え直した。
残っている左脚を軸に、一足飛びで兄の間合いに踏み込む。
兄は当たり前のように左手で太刀を振るい、飛び込んできたアクセルに刃を向けた。
「……タアアアッ!」
兄の太刀を右脚の鞘で受け止め、小太刀を斜めに振り下ろす。
兄は上体を反らせ、小太刀の直撃を避けた。すぐさまバク転がてらこちらを蹴り上げ、着地と同時に再び太刀を振るってくる。
横に薙ぎ払われた太刀から風の刃が飛び出し、こちらに襲いかかってきた。
「ハアッ!」
アクセルも小太刀を振るって、風の刃を発生させた。
兄の風とぶつけて相殺し、左脚を踏み込んで更に切り込む。
「タアアァアッ!」
小太刀が兄の足元に入り、右脚の骨まで食い込んだ。
確実な手応えと共に、真っ赤な血液が噴き上がった。
「……ギェアアアァッ!」
途端、兄が吼えた。
兄は斬られた脚をものともせず、左腕一本で真上から太刀を振り下ろしてきた。
「っ……!」
右の小太刀で太刀は防いだものの、同時に発生する風の刃までは防げなかった。
どうにか首を捻ったが、右肩から左の脇腹までざっくりと斜めに斬られてしまう。
それだけでは終わらず、兄は力ずくで小太刀を押し返し、太刀を振りきってアクセルを吹っ飛ばした。
「がっ……!」
壁に大きく叩きつけられ、衝撃が全身を襲う。
急いで立ち上がろうとしたのだが、左脚を着いた途端ぐらりと身体が傾き、べしゃと地面に崩れ落ちてしまった。
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