2272 / 2296

第2272話※

 ――だ、だめだ、まだ……!  両腕だけで身体を持ち上げ、小太刀を地面に突き刺して必死に立ち上がる。  先程叩きつけられた衝撃で左脚が折れてしまったらしく、左脚がぐらぐらして上手く直立できなかった。  正面からの出血もあり、激しい目眩がして口から黒ずんだ血が溢れ出す。 「ふ……」  一方の兄は右脚を引きずってはいるものの、まだ自力で歩ける状態だった。  胴体に大きな傷はないし、右腕が吹っ飛んでいる以外に外傷はない。傷の大きさで言えば、明らかにアクセルの方が重傷だ。 「っ……!」  アクセルは右手で小太刀を握り、近づいてくる兄に向かって斬り返した。  ここから逆転する術なんてあるのだろうか。正直、かなり厳しい状況だと思う。  だけど、ここで終わりにしたくない。まだ戦いたい。  あと少し、あと少しで兄上に届きそうなんだ。  せめてもう一撃。もう一撃入れる力を、俺に……! 「あっ……!」  ヒュン、と太刀が風を切った。  頭を低くして避けようとしたのだが、気づいたら左腕がなくなっていた。  身体を支えていた左腕を失い、今度こそ地面に倒れ伏す。 「う、う……」  耐え難い痛みが断片的に襲ってきて、アクセルは途切れ途切れに呻いた。  狂戦士モードも切れかかっている。口が鉄臭い味でいっぱいになり、地面に蹲(うずくま)りながらゲホッと血を吐き捨てた。  本当にもう限界か……。 「もらった、かな」  左腕と右脚を失くして突っ伏しているアクセルを、わざと仰向けに転がしてくる。  そのまま切ればいいものを、いちいち顔が見える体勢にしてくるところが、何とも兄らしいというか……一種のこだわりを感じる。  ――でもな、兄上……。  自分の上に馬乗りになり、首に太刀を突き立てようとしてくる兄。  アクセルは最期の力を振り絞り、残った右腕で小太刀を兄の腹部にめり込ませた。 「っ……!?」  弾力のある肉の感触と柔らかな内臓、それをまとめて断ち切ろうと、腹の三分の一まで切り込む。  兄がこだわりを見せるなら、自分はそのこだわり――という名の隙を、最期まで利用させてもらう。
5
いいね
5
萌えた
0
切ない
4
エロい
5
尊い
リアクションとは?
コメント

ともだちにシェアしよう!