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第2272話※
――だ、だめだ、まだ……!
両腕だけで身体を持ち上げ、小太刀を地面に突き刺して必死に立ち上がる。
先程叩きつけられた衝撃で左脚が折れてしまったらしく、左脚がぐらぐらして上手く直立できなかった。
正面からの出血もあり、激しい目眩がして口から黒ずんだ血が溢れ出す。
「ふ……」
一方の兄は右脚を引きずってはいるものの、まだ自力で歩ける状態だった。
胴体に大きな傷はないし、右腕が吹っ飛んでいる以外に外傷はない。傷の大きさで言えば、明らかにアクセルの方が重傷だ。
「っ……!」
アクセルは右手で小太刀を握り、近づいてくる兄に向かって斬り返した。
ここから逆転する術なんてあるのだろうか。正直、かなり厳しい状況だと思う。
だけど、ここで終わりにしたくない。まだ戦いたい。
あと少し、あと少しで兄上に届きそうなんだ。
せめてもう一撃。もう一撃入れる力を、俺に……!
「あっ……!」
ヒュン、と太刀が風を切った。
頭を低くして避けようとしたのだが、気づいたら左腕がなくなっていた。
身体を支えていた左腕を失い、今度こそ地面に倒れ伏す。
「う、う……」
耐え難い痛みが断片的に襲ってきて、アクセルは途切れ途切れに呻いた。
狂戦士モードも切れかかっている。口が鉄臭い味でいっぱいになり、地面に蹲(うずくま)りながらゲホッと血を吐き捨てた。
本当にもう限界か……。
「もらった、かな」
左腕と右脚を失くして突っ伏しているアクセルを、わざと仰向けに転がしてくる。
そのまま切ればいいものを、いちいち顔が見える体勢にしてくるところが、何とも兄らしいというか……一種のこだわりを感じる。
――でもな、兄上……。
自分の上に馬乗りになり、首に太刀を突き立てようとしてくる兄。
アクセルは最期の力を振り絞り、残った右腕で小太刀を兄の腹部にめり込ませた。
「っ……!?」
弾力のある肉の感触と柔らかな内臓、それをまとめて断ち切ろうと、腹の三分の一まで切り込む。
兄がこだわりを見せるなら、自分はそのこだわり――という名の隙を、最期まで利用させてもらう。
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