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第2276話(ジーク目線)
「まったく、この兄弟は……死んでからも何かと手がかかりますね」
ユーベルが呆れた声で口を挟んできた。
彼はやれやれと腰に手を当て、こんなことを言ってきた。
「化けて出られても面倒です。わたくしの棺をお貸しいたしましょう」
「……わたくしの棺? お前さん、専用の棺なんて持ってたのか?」
「ええ、以前ベッドを新調する時についでに作らせました」
ユーベルの合図と共に、彼の親衛隊が複数人で何か大きな箱を持ってくる。
それは普通の棺の三倍以上もの大きさがあり、かなりゆったりした作りになっていた。
「なんだこりゃ? こんなの持ってたなんて聞いてないぞ」
「作ったはいいものの、ほとんど使ったことがないのですよ。死合いでわたくしを殺せる戦士など、滅多にいませんからね」
「……じゃあ作る意味ないじゃねぇか」
「万が一ということもあるでしょう? どうせなら快適に眠った方がいいと思いまして」
ほとんど使ったことがないのなら、快適もクソもないと思うのだが……貴族様のこだわりはよくわからん。
「へー、すごいねユーベル。僕もいつかそこで寝てみたいー」
ミューは興味津々のようだが、ミューが死ぬ可能性はユーベルよりも低そうだ。
ひとまずオーディンの館まで遺体を運び、空いている広い場所にユーベルの特別な棺を置く。
そこに、アクセルとフレインの二人を放り込んでやった。運んでいる最中も手が離れることはなく、兄弟間の絆の固さを見せつけられているみたいだった。
「…………」
蓋を閉める直前、ジークは改めて二人の顔を眺めた。
ズタボロではあるが、どちらも満足げに微笑んでいるように見える。あれだけ派手に戦って、バルドルに一度回復までしてもらったのだ。さぞかし満たされたことだろう。
「……ったく、楽しそうな顔しやがってさ」
「実際、楽しかったのでしょう。少なくとも、この二人にとってはね」
「仲良し兄弟、羨ましー。僕もこういう兄弟欲しかったなー」
バタン、と重い蓋を閉じ、館を後にした。
彼らが復活した暁には、ちょっとした迷惑料としてメシでも奢ってもらうか。
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