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第2277話

 たくさんの夢を見ていた気がする。  生まれてからヴァルハラに来るまで――いや、ヴァルハラに来てからの思い出をも一気に観賞していた気分だ。 「あにうえ、まって」  幼い自分が目の前を通り過ぎていく。その先には十七、八歳くらいの兄がいた。 「私はここだよ。早くこっちまでおいで」  爽やかな顔で応援してくる兄。  その声に応えるべく一生懸命走ったら、次の瞬間には例のトラウマシーンになっていた。  血まみれの兄が虫の息で転がっており、若かった自分が大号泣している。  ――う……これはちょっと見たくないな……。  目を逸らして手でパッ、パッと掃うと、また次の思い出が流れてくる。  今度は初めてヴァルハラに来た時の出来事だった。久しぶりに会った兄に呼びかけたら、いきなり腕を落とされているシーンだ。  これもやや苦い思い出である。  ――兄上、その気になったら俺でも普通に斬るからな……。  生前は元に戻らないから遠慮していただけで、ヴァルハラみたいに復活できる環境があれば、割と容赦なく武器を振るう人なのだなと思い知った。  もちろんそれが嫌なわけではないし、むしろ雄々しくてかっこいいと思うのだが、生前にはなかった殺気に驚かされたのは事実である。  そんなことをしておきながら、アクセルへの愛情はずっと変わらない。  何かにつけて世話を焼いてくれるし、弟のピンチには必ず駆け付けてくれる。もうダメだと思った時も身体を張って守ってくれる。  例え死んでも急いで遺体を回収して棺に入れてくれるし、存在が消滅してもあの手この手で復活させてくれた。  愛が深いことがわかるから斬られたことも忘れてしまうし、ますます兄のことが好きになってしまう。何をされても嫌いになれない。  ――幸せ者だな、俺は。  本当にいろんなことがあった。  死んだことは何度もあるし、罠に嵌められたことも数え切れないほどある。たくさんの人に迷惑もかけたし、知らない間に恨みを買ったこともあった。  それでも、とても幸せだ。  兄に愛され、夢だった兄との死合いもできて、気のいい知り合いにも囲まれている。  ヴァルハラに来られて、本当によかった。

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