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第2278話

「……!」  見ていた光景が薄くなり、だんだん視界が明るくなってきた。そろそろ現実に帰る時間だ。  アクセルは光の射す方へ手を伸ばした。  自分自身が浮き上がる心地がして、ふわっとしていた意識がハッキリしていく。  同時に身体の感覚も戻ってきて、浮遊感がなくなりズシンとした重みを感じた。 「っ……!」  ハッと目を開けたら、オーディンの館の天井が見えた。  ――ああ、やっと蘇生が終わったのか……。  周りは明るく、今は昼であることがわかる。  はて、一体どれくらい寝ていたのだろう。四肢は欠損していたし最期は頸動脈も斬られたから、少なくとも丸一日は経っていると思われる。ピピやカメの食事が足りているか、若干心配になってきた。  そう言えば、兄はどうしただろう。もう復活したんだろうか。  兄もボロボロになっていたから、回復に結構な時間がかかっていそうだが……。 「おはよう、アクセル」 「……え?」  大好きな声が右から聞こえてきて、アクセルは顔をそちらに向けた。  兄が右肘をつきながら横に寝そべっており、穏やかな笑顔でこちらを眺めている。  左手はアクセルの右手を握ったままで、恋人のようにがっちり繋がれていた。 「兄上……? あれ?」  ここは棺の中……だよな? なのに、何故兄がすぐ隣にいるんだろう? 棺は大人一人しか入れないはずなのに、どうして……?  身体を起こし、棺そのものを確認してみる。  アクセルが寝ていたのは、通常の棺とは全く違うものだった。  大人が三人くらい寝てもまだ余裕のある大きさで、中はふかふかのマットレスが敷き詰められており、柔らかい枕もある。  棺というよりベッドに近い代物で、さすがに面食らってしまった。 「な、何だこれ? というか、これは棺なのか?」 「ユーベルが貸してくれたんだってさ。私たちの手を引き剥がせなかったみたいでね」 「手を……?」 「死ぬ直前にお前の手を握ったら、そのまま固まっちゃったらしいんだ。それで二人が並んで入れる棺を持ってきてくれたそうだよ」 「へ、へえ……そうだったのか」

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