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第4話
鳥のさえずりが聞こえている。
「んん……」
俺は目をこすりながら、寝返りを打った。
そして至近距離にある美しい顔に目を見張る。
「主任……?」
「おはよう。尾宮」
よく通るバリトンが俺の名前を呼び、俺の意識は急速に覚醒していく。
ケットからたくましい主任の上半身がはみ出していて、太い腕は、なんと俺の頭の下にある。
(えっと、主任の腕枕……? これはどういうシチュエーションだ?)
慌てて目線を下に向けた。どうやら自分も裸らしい。
俺は目をぱちくりさせて、まじまじと主任の顔をもう一度見つめる。
(寝起きのはずなのに、スッキリした顔……ってそんなこと言ってる場合じゃない!)
俺は背中をのけぞらせて主任から距離を取った。
「お、おはようございます。あ、あの、俺、主任のマンションに泊まったんでしたっけ……?」
「まさか、覚えてないのかよ?」
整った眉根が不服そうに細められる。
「はい……すみません。なんか、べろんべろんに酔っ払ったことだけは覚えてるんですけど」
本当は起き上がるべきなんだろうけど、もしかしたらすっぽんぽんかもしれない疑惑が頭をよぎり、バツの悪さに身じろぎできない。
昨日は山田社長とのバトルの後、怒られるのかと思いきや、逆に主任に褒められて……。
多分嬉しかったんだと思う。恥ずかしすぎてビールを飲んで、それからのことは全然覚えてない。時々あるんだ。こういうこと。ものすごく緊張したり、びっくりしたりするときに起きる、プチ記憶喪失。
主任はまいった、と言うふうに、自分のこめかみに指を当てる。
「……お前、そこまでアルコールに弱かったのか」
「……あの、もしかして俺、何かやらかしました? 」
「やらかしたも何も……」
長い前髪の合間から、奇妙な色に光る主任の目が上目遣いに俺を見た。
「お前、俺のこと襲ったろ」
「えっ? 嘘ですよね、主任!」
冗談だと言ってくれと、祈るような気持ちで問いかける。
「……これ、見てみろ」
主任は半身を起こし、一気にケットを剥ぎとった。
「わっ……わわっ」
最悪な予想がずばり当たって、俺も主任も真っ裸。下着一枚つけてない。
「わあ……」
そして俺は野太くそそり立った、主任のものに釘付けになる。
直径も形もそこそこの俺のものとは、比べ物にならない位それは立派で、羨望とともに胸の鼓動が高まっていく。
主任は俺の手をとって、脇腹のところに触れさせた。
よく見ると、黒い鬱血がある。
これは、もしかしてキスマーク……。
「お前の愚痴を聞いてたら、すがりつかれて、それからなし崩し的に押し倒されて、その後は……わかるよな?」
「やっちゃった……んですか? 俺が、主任を? じゃあ、そのキスマークは」
「そう。お前がつけたんだよ」
血の気がすーっと引いていく。いくら酒に弱いとはいえ、嫌がってる相手を襲うだなんて、俺はそんなに鬼畜だったのか。
俺は半身を起こすとベッドの上で土下座した。
「す、すみませんでした……俺、どうやって償えばいいか」
激しい後悔に、俺は身悶えしそうな思いだった。
よりにもよって、直属の上司に、そんなとんでもないことをしてしまうなんて。時間を巻き戻してしまいたい。タイムマシンがあればいいのに。
「顔あげろ」
髪の毛を軽くつかまれ、上向かされる。
主任の目が楽しそうに細められている。
「酔った勢いを、本物にしろ。そうしたら、許してやるよ」
「どういう意味ですか?」
「俺と付き合え」
「は?」
半開きになった俺の唇に、主任の冷たい唇が重ねられた。
それはほんの一瞬で、唇はすぐに離れていく。遅れて……心臓が早鐘を打ち始めた。
「ずっと前から好きだった……そうじゃなきゃ、誰がやらせるかよ」
「え……ええっ?」
思いもよらないカミングアウトに、胸の鼓動が止まらない。
「愛してる。尾宮」
語尾がなぜか甘く震え、再び唇が重ねられて……。
俺は驚愕に震えながらそれを受けた。
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