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第8話
エレベーターのドアが閉まった瞬間、噛み付くようなキスが落ちてきた。
「ん……んん」
条件反射で押しのけようとして、すぐに思いとどまる。
そうだ、そうだよ。俺は主任と付き合うんだ。もう恋人同士なんだ。
(怯むな、俺)
脱力した瞬間、生温かい舌が唇の中に入ってきて、体がカッと熱くなる。
前にキスしたのっていつだっけ……。
卒業直前の追い出しコンパで、酔っ払ったOGに奪われてそれっきりだ。
どんな感じだったか、今ではすっかり忘れてる。それなのにこのキスは、なんだか覚えがあるような気がする。
滑った舌が口腔をかき回し、俺の体から熱を一気に奪い取っていく。
キスだけでもう、腰砕けだ。今からこんなになっちゃうなんて……。これから先のことを想像すると、頭の中がクラクラする。
主任は俺を先に部屋の中へ押し入れると、壁際に追い詰め、俺を見据えたまま自分のネクタイを解いた。
ぼーっとしている間に再び壁に置かれた両肘の檻に閉じ込められ、俺の心臓は爆発寸前。
黒目の多い、切れ長の目が、俺をじっと見つめてる。
「主任……」
「しーっ。黙って」
その言葉は至近距離で伝えられ、そのままキスへとなだれ込んだ。
下唇を掬い上げられるように口づけられ、長い舌がまた入ってくる。
ちゅくちゅくと口腔を弄られ、吐息ごと魂を持っていかれそうになる。
上手すぎるキスに頭の中がクラクラだ。これ以上されたらマジでやばい。
俺は貪られるままに脱力した。目は自然に閉じていた。こんな官能的なキス、信じられない。
やがて唾液の糸を引きながら唇が離れ、体がふわっと浮いたかと思うと、俺は主任に横抱きにされていた。
「おっと、主任? この状態は……」
「お姫様抱っこ」
慌てている俺に、主任はスタスタ歩きながら説明した。
「そ、それはわかるんですが……立場が逆では……?」
「ん? お前、何言ってんの?」
「俺が主任を運ぶんじゃなかったんでしたっけ……?」
「できるかよ」
主任がクスっと笑う。
いや、体格的には、このシチュエーションは間違ってない。すごく自然だ。
主任は俺より一回り大きくて、俺は身長160センチそこそこで。
でもさ、昨夜は俺が主任を抱いたはずなんだ。つまり、その……俺の方が男だったわけで。
だけどさっきからずっと流されている。俺がリードしなきゃならないのに……。
主任は文字通りお姫様を扱うみたいに、そっと俺をベッドにおろした。
長い前髪の隙間から覗く切れ長の目が、上から真っ直ぐに俺を見据えていて、その色気に心臓がドキドキと音を立てる。
息を吸う間もなく唇を奪われた。
やさしいキスであやしながら、主任は俺のワイシャツのボタンをゆっくりと外していく。
「あの、俺が上になります」
キスの合間に訴えれば、
「いいから寝てろ」
掠れた声でそう言われた。
「けど、昨日は俺の方が、主任を襲ったんですよね」
一瞬の間があり、俺は、ん? と首をかしげた。主任は、はっとしたように少しだけ視線を揺らめかせると、
「……そのうち、チェンジするから、それまでは何も考えるな。せっかくの夜だろ」
そう言われて、俺は仕方なく口を閉じる。確かに……俺、喋ってばかりで、さっきからムードをぶち壊してる。
(恋人同士になったのに……そうだよ。駄目だな、俺……)
ボタンが全部外されて、剥き出しになった肌を、主任の大きな掌がゆっくりと這う。
息が荒くなってきた。今のところ気持ちがいいとか感じる余裕なんて、全然ない。
行為はどんどん進んでいき、そのうち、主任が言うところの、チェンジの瞬間がやってくるだろう。
(男が男を抱くのって、どうするんだ? いったい俺は、昨日、どうやって主任とつながったんだ……)
巧みなキスであやしながら、主任は俺の上半身を裸に剥いた。
男の俺にとって、本当は裸なんて恥ずかしくもなんともないはずなんだ。それなのに、今から抱き合うんだと思うと、顔が一気に熱くなって、心臓が爆発しそうになってくる。
「鳥肌が立ってる。寒いか?」
「いいえ」
「じゃ、感じてるんだな?」
「それは……」
「無理すんなよ。かわいいな。本当に」
肌に触れる手のひらに、体が甘く痺れていく。
主任の薄い唇が首筋へと移り、敏感なところを熱い吐息がかすめていく。
「んっ……んんっ」
心と体が疼き始め、喘ぎ声が止まらなくなる。
肩にまでキスされて、体から力が抜けていく。
乳首がざらついた手のひらに擦られて、背筋に甘い快感が走った。
「ここがいいのか?」
主任は弾むような声でそう言うと、肉に埋もれた乳首を二本の指でそっとつまんだ。
「うっ……くうう……」
ピリッとした快感が、触れられた箇所から全身に走る。
それがあんまり気持ちよくて、思わず恥ずかしい声で喘いでしまった。
「いい声」
主任の指が俺の先端を丹念にいじり、そのたびにビクビクと体が震える。
男なのにこんなところが感じるなんて、自分で自分が信じられない。
主任の滑った舌が、尖りかけの先端に押し付けられベロベロと舐め始める。
これは、ちょっと……想定外だ。
「ひあっ……」
俺は思わず背中を仰け反らせた。
「こら、逃げるな」
主任はそこから唇を離すと、俺の背中に手を回し、ぐっと自分の胸へと引き寄せた。
「す、すいません」
思わずそう言うと、主任は呆れたみたいにこう言った。
「真剣に謝るな。会社にいるみたいで台無しだろ」
「すいま……あ、」
「まったく」
主任は苦笑する。
「お前の体、赤くなってる。まだ始まったばかりなのに、反応がいいな」
「お願いですから、そういうこと、言わないでください」
「俺がムードを作らないと、ちっともそれっぽくならないからな」
「……恥ずかしすぎます」
上目遣いに訴えれば、主任はくぐもったバリトンでこう言った。
「……なかなか煽るじゃないか。いいぞ。その調子だ」
充血した乳首が音を立てて吸い上げられる。
「やあっ……ううっ……うん……」
俺のそこは唾液を吸って膨れ上がり、感じる肌がますます充血していく。
「はっ……ああっ……うう」
いやらしい声が唇から漏れ、俺はいつしか主任の背中に両手を回し、激しい快感に耐えていた。
ズボンのジッパーが下ろされて、じわじわと下半身が暴かれていく。
下着を抜き去られた時には、恥ずかしさに震えてしまった。
(落ち着け、俺。昨日全部見られてんだから、今更動揺なんてしなくていいから)
自分で自分に言い聞かせる。
主任の大きなものが俺の太ももに当たっている。
「感じてるお前……すごく可愛い……」
いやらしい言葉責めにいたたまれなくなり、俺は顔を歪めて首を振った。
下腹がむき出しにされ、両足が軽く広げられる。
「主任……待って……」
誰にも見せたことのない秘密の箇所が、冷たい空気にさらされる。
「じっとしてろ」
「けど……」
未知への恐怖に怯えて怯む腰を、主任は両手でガシッと掴む。
そして俺のあそこに指の腹が押し当てられた。
俺はハッとした。
「ちょっと待って……それ逆ですよね」
主任の胸を押し上げながらそう言うと、
「何で……?」
不思議そうな声が返ってきた。
「俺が、先輩を抱くんでしょ。いつチェンジするんですか」
「そのことなら、もういい」
「いいって、そんな……」
「どっちが上でも下でも、大差ないだろ」
「いやいや、かなり大事なことじゃないですか」
「いいから、俺に任せとけよ」
主任は俺の乳首をクニクニといじり、口の端に音を立ててキスをした。
「ああっ……」
乳首が硬くしこってきて俺の息は次第に荒くなる。
「好きだ……」
何度も何度も好きだと言われて、めまいがしそうな陶酔感に襲われる。
皺だらけの小孔をさまよっていた指が、先っちょだけ俺の中へと入り込んできた。
「うあっ……」
異物の感触に、入り口が一瞬で閉じてしまう。
「少しだけ我慢しろ。慣らさないと辛い」
「でも……」
「ほら、いい子にしてろ」
主任は俺の手首を左手で持つと、ひとまとめにして頭上に留め、空いた方の手で尻の辺りを撫で回す。
再び長い指先が戻ってきて、ずぶりと内部へ突き入れられた。
「あああっ……はっ……」
ピクンと背中がしなり、堪えられなくなった俺は、両手をいましめられたままベッドヘッドへとずり上がる。
「大人しくしてろよ。優しく優しくしてやるから」
耳朶を甘噛みされながら囁かれ、不安を拭えないまま、俺は体の力を抜いた。
人差し指の第一関節辺りまでが挿入され、俺の肉をかき分ける。
鈍い痛みが体の中心を駆け抜けていく。顔を歪めていたら、主任が話しかけてきた。
「大きく息を吸って」
「こ、うですか……」
「次は吐く」
「ふう……」
痛みに怖気ついてる俺は、言われるがままに深呼吸をした。
息を吐いたそのタイミングを見計らって指が抜かれ、代わりに、野太いものが入ってきた。
「うわっ……ああっ……!」
硬すぎるものに串刺しにされる衝撃。
俺は思わず悲鳴をあげた。
「チェンジ……できてない!」
俺が主任を犯すんじゃなかったのか。
パニックに陥っている間にも、硬いものは俺の肉を切り裂いて、奥へと押し込まれる。
初めて目にした時、すごいと思った男根だが、実際に受け入れてみれば想像を絶する硬さと太さだった。
苦痛でたまらない。こんなこと、本当に俺は主任に仕掛けたのだろうか。
そして主任は、本当に俺のものを受け入れたのか。
どっちにしても俺のは普通サイズだから、絶対ここまでの殺傷能力はなかったはずだ。
俺ははあはあと荒い息を吐きながら、体を切り裂く、異物を受け入れることに必死になっていた。
中ほどまで受け入れた時、主任が声をかけてきた。
「痛いか?」
「痛いです」
俺はそう即答した。強がりたいけど、無理だった。
今まで感じたことのないほど凄まじい痛み。体が2つに引き裂かれてしまいそうな、強烈すぎる刺激に、めまいがする。
「痛いのは最初だけだ。すぐに気持ちよくさせてやるから」
主任が、ぐん、と腰を突き上げてきた。
「ああっ……」
主任のものが俺の中いっぱいに膨らんでいく。
「ふう……うん……」
内臓まで広げられるような苦しさに涙がにじんだ。
「お前の中、狭くてきつい……食いちぎられてしまいそうだ」
「は……ああ……」
「全部……入った……」
俺の頭を両腕で抱え、主任はせわしなく囁きかけてきた。
「うう……」
奥の奥まで征服されてしまい、苦しくて、ただ、うめくしかできない。
軽く腰を揺さぶられ、瞼の裏にチカチカと星が瞬く。
気持ち……いい? 嘘だろう……そんな……。
「動くぞ」
小声でそう囁かれ、がしがしと腰が打ちつけられた。
「はっ……あっ」
挿入が繰り返され、大量の粘膜がごっそりと削られていく。
「ううう……」
痛みはまだ、ある。だけど、根気よく抉られているうちに、じんわりとした快感が腹の中に生まれてくる。
「お前の肉が俺に絡み付く……いい体だ」
感動したような声で、主任が囁きかけてくる。
俺は男で、濡れるわけなんてないのに、そんなこと言われると、体が熱くなって、ひどく感じてしまって、たまらない気分になっていく。
まるで、抱かれるのが当たり前のような気分に……。
ミシミシと内壁が押し広げられ、体の奥底が甘くうずく。
身悶えながら俺は、主任の首筋にしがみついた。
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