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第12話

 ドアの前には想像通り慎太郎が立っていた。  手にしたコンビニの袋からは、つまみや缶ビールがのぞいている。 「……ちょっと聞きたいことがあって来たんだけど、顔色悪いぞ。大丈夫か?」  慎太郎は俺の様子を見て眉をひそめる。よっぽどひどい状態らしい。 「うん……さっきから気分が悪くてさあ……悪いけど、今日は帰って…………」  そこまで言った途端に足元がよろけて、俺は慎太郎の胸に倒れこむ。 「おいおい」  慎太郎は俺を支えると、鞄とコンビニの袋を床に置き、俺の前髪をがっと上げ、額に手のひらを当てがった。 「熱は無い……けど、顔が真っ赤だぞ」 「大丈夫……」  全然大丈夫じゃない感じで俺は言った。  心配かけたくないし、詮索もされたくないんだけど……あまりにも状態がひどくて突っ張れない。 「そんなわけあるかよ。入るぞ」  案の定慎太郎は聞き入れず、俺を引きずってリビングに向かう。 「う……」  情けないけどされるがままだ。  ソファーに俺を座らせると、慎太郎はマジマジと俺の顔を覗き込んできた。 「何かあったのか?」 「別に……」 「変だな」  ゼーゼーと荒い息を吐いている俺を、慎太郎は疑うような目つきでじっと見た。 「頼むから、もう帰ってくれ」  俺の口調が荒ぶっていく。体が熱くてたまらない。  早くこいつを追い返さないと、とんでもないことになってしまいそうだった。 (恨みますよ……山田社長……)  下腹がズキズキと疼くのは、間違いなく薬が最高潮に効いているせいだ。  脂汗が背中に滲む。 「あのな、おみ……」  俺の顔を覗き込んできた慎太郎が、一瞬はっと息を飲む。 「お前……」  なぜだか奴の頬が赤くなった。 「何……?」  と言い返した声が、自分でも嫌になるくらい甘ったるい。  慎太郎の腕が腰に回った。整った顔が、急速に近づいてくる。 「へ……?」  間抜けな声を上げてしまった。次の瞬間、慎太郎の唇は、俺のそれに重ねられていた。 (な、な、何……?)  それはあまりにも自然な動きで、動揺しているのにもかかわらず、俺は思わずその動作に応えてしまう。  突っぱねれば良い。それはわかっていた。だけど、体が燃えるように熱くて、その動作が取れない。 「んん……」  ダメだ。完璧に受け入れている。  慎太郎の手のひらが、俺の背中をつっと撫でた。 「ひゃ……」  解けかけた唇が再び深く結び合わされる。  半開きの唇に、舌が押しこまれる。まるで生き物みたいにその舌は口腔をは­いまわり、ただでさえ熱い体がますます火照る。 「尾宮」  唾液の糸を引きながら、唐突に口づけは終わり、シャツ越しの胸を手のひらが撫でる。 「あっ」  思わず色っぽい声をあげてしまい、俺は腰を引いてこの淫らな行為から逃れようとした。 「逃げるな」  だけど、慎太郎は許さずに、 俺の衣服を脱がし始めた。 「そんなことしちゃ……ダメだ」  途切れ途切れに俺は訴えた。 「泣きそうな声で言うなよ、ばか」  優しさの極みみたいな声で慎太郎が囁きかけてくる。  これ、女だったら絶対に惚れてる。俺の胸まで、ドキッとしたくらいだから。  慎太郎は燃えるような眼差しで俺を見つめ、シャツのボタンを全部外し、前たてをくつろげた。  下腹がそれだけで硬くなっていく。  主任と慎太郎。  二人に対する罪悪感を、快感への期待が上回る。 (これは、薬のせいだ……そうなんだ……)  俺は頭の中で何度もそう言い聞かせた。  と、慎太郎が動きを止めた。 「何だ。これ」  奴は俺の胸元を凝視している。 「え……?」  その視線につられて俯くと、充血した乳首とキスマークだらけの周辺が目の中に飛びこんできた。 「や、違うんだ、こ­れは」 「もしかして、さっきまで誰かいた?」 「いや、いない」 「いたんだな」  慎太郎の目がきらりと光った。

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