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第13話

 慎太郎は険しい顔でベッドルームに向かった。 「ま、待て。待ってくれ」  慌てて阻止しようとしたけど、忌々しい薬はまだ俺の体を支配していて、立ち上がれない。  しばらくすると慎太郎はしかめっ面で戻ってきた。 「こんなものが落ちてた」  手にしているのは銀色に輝く手錠。山田社長の忘れ物だ。 「窓は開きっぱなしだし、もしかして誰かと変なプレイでもしてた?」  どうしてこいつはこんなに勘が鋭いんだ。 「……違うよ……」  ああ、俺って嘘が下手くそ。めちゃくちゃ声がきょどってる。  案の定、信じなかったらしく、慎太郎は無言で俺の手首を手に取ると、立て続けの質問を浴びせた。 「赤くなってる。誰にやられた? つか、なんでそいつ、逃げたわけ?」 「えっと」 「もしかして、お前が付き合ってるのって……」  慎太郎が何か考えこんでる。一体何に気がついたのかわからないけど、嫌な予感しかしない。 「あのさ……」  適当な理由をでっち上げようとした時、下腹がずくりと甘い痛みを覚え、それどころじゃなくなってしまう。  そうだ。そうだよ。今の俺は誰かと討論している余裕なんてないんだ。  それなのに慎太郎ときたら。  手錠と俺の手首とそれから俺の顔、そして胸のあたりを順繰りに見て、何か思いあぐねているような感じだ。 (ああ、もう無理……!)  俺は思わずあいつの首にしがみついた。  奴のスレンダーな体が硬直する。 「ごめん。しばらくじっとしてて」  そう言いながら、俺は慎太郎の首の辺りで大きく息を吐く。  と、唐突にソファーの座面に押し倒された。  アドレナリンが大量に分泌される。 「ちょっと待って。そういうつもりじゃ」 「ないって言うのか。笑わせんな」  穏やかな慎太郎の顔が、険しいものへと変わっている。 「恋人が出来たって言うのに、お前、ちっとも幸せに見えない。なんでだよ」  そう言われて、主任の顔が初めて浮かんだ。  もしかして、慎太郎、誤解してる?  ベランダから逃げていったのは新しい恋人だったって……? 「違う、誤解だ……」 「そいつが幸せにできないなら、いっそ、俺が……」  慎太郎の目がぎらっと光った。こんな目、今まで見たことない。  獲物を狙う肉食獣のような、欲望をたたえた鋭い視線……。ただでさえクラクラしている頭が、限界を超える。  欲しい……かも。  噛み付くようなキスされて、茶色がかった綺麗な瞳で見つめられる。 「う……ごめん」  こみ上げてくる罪悪感。  だってさ、俺の体はもう薬のせいで半分蕩けそうになっていて、今まで感じたことがないほどの欲求にさいなまれてるんだ。 「誰に謝ってんだ」  そう言いながら、奴は大きな手のひらで、ズボンの上から俺のに触れた。 「ひやぁっ」  腰が大げさなくらい跳ねあがる。 「硬くなってる。俺に触られて、気持ちい­い?」  奴の声が甘くなってる。この行為にノッてるのが、その声でわかる。  なんで俺なんかに……って、 (煽ったのは俺だ……ああ、バカバカ)  どんなに反省したところで、燃え上がる体は止められない。  熱い奴の手のひらの感触に、心臓がやばいぐらいに波打ってる。  奴の細くて長い指が、俺の乳首をそっと摘んだ。 「うあ……!」  ゾッとするほど甘ったれた声が唇から漏れる。  男の指に育てられた乳首が、ピンと天井を向くのがわかる。  体中に鳥肌が立ち、毛穴から汗が噴き出す。 「ここ、もう、弾けそうだな」 「くぅ……」  そっと俺のを揉み混んでいた手が離れ、俺は鼻にかかったような声で喘いだ。 「待ってな。すぐに楽にしてやる」  ファスナーが下され、テントみたいに膨れ上がった下着越しの俺自身が露になる。 「こんなに興奮して……すぐに俺が鎮めてやるから」  するりと下着が脱がされて、剥き出しになった俺のが温かい手のひらに包まれた。 「やめ……それは」  俺は止めたけど、形だけの抵抗なんて、もうとっくに見抜かれている。  きゅうっとそこを握られて、慎太郎の手のひらに先走りの汁が飛び散るのがわかる。 「わ……ごめん」 「気にすんな」  あっさり言うと、慎太郎はさらに手を動かした。 「やめろ」 「なんで」 「お前のスーツが……汚れちまうだろ」 「ああ、なるほど」  慎太郎は半身を起こすと、俺に視線を向けたまま背広を脱いでネクタイを解いた。  ボタンをすばやく外し、シャツまでも脱いでしまった。  鍛えられた体に俺はゴクリと唾を飲んだ。すごく均整のとれた体だ。  こんなに男っぽくて、たくましかっただなんて……今まで身近にいすぎて全然気がつかなかった。 「これで汚れても大丈夫だ」  しれっとした表情で慎太郎が言う。 「いや、そんな問題じゃなくて」  引き返せない雰囲気に、俺は今更ながら顔を赤くした。  慎太郎はきっぱりとこう言った。 「別に平気だったんだけどな。お前にならいくら汚されても」 「バカ……」 「証拠見せようか?」  悪そうな笑顔を見せたかと思うと、慎太郎はいきなり俺のをパクリと口にくわえた。 「え……やめ……!」  俺は両眼を見開いた。  こんなの今まで、誰にもされたことがない。  滑った舌が俺の側面を丹念に舐めて、薄い皮を剥いていく。  気持ちがいい。ちゅうちゅうと吸われ、先端のぬるぬるしたところまでも舐められた。 「くっ……」  俺の竿が奴の口腔で一段と大きくなる。  俺は奴の頭に手を置いて、そこから引き離そうとした。  だけど、感じやすい箇所を何度も舐められ、俺の両手は逆に下腹へと押し付けるなような動きに変わっていく。  慎太郎の口いっぱいに俺のものが膨れ上がり、激しい快感が脳天に上がっていく。  うまいと思った。や、他を知らないけどさ、絶対、うまい。うますぎる。 「うっ……うう……」  すすり泣く俺をあやすみたいに、慎太郎は指で小さな小孔の周辺を伸ばし始めた。 「いや……そこは」  ちゅくちゅくと前を吸われながら、後ろの穴までも広げられ、俺は顔を真っ赤にして身悶えた。  最高に気持ちがいい。  気持ちよすぎてたまらなくて、どうにかなってしまいそうだ。  ちゅるっ、といやらしい音がして、より強い吸引を受けてしまう。 「はあっ……ああ……」  ため息とともに、頭の中が真っ白になり、俺の下半身は一気にスパークした。  自分の腰が小刻みにグラインドし、あまりの気持ち良さに、俺はソファーの座面に爪を立てる。  なんなんだ、この感触。  ゴクリと淫靡な音がして、やつの口が離れていく。  慎太郎は口の端に付いた白い液体を手の甲で拭った。 「ちょい待て、お前まさか飲んだのか?」 「うん」 「うん、じゃないだろ! バカ!」 「うまかったぜ」  再びたくましい体が覆いかぶさってくる。  慎太郎の目の中に俺が写っている。  なんていやらしい顔なんだ。  物欲しそうで、まるでこいつを誘ってるみたいに、俺の瞳が潤んでいる。  後孔に固いものが押し当てられた。 「あ、慎太郎、待って」 「待たない」  猛った物が押し入っていく感触に、震えが走る。 「ダメだって言ったのに……」  拒絶の言葉とは裏腹に、声が明らかに濡れている。  かなりの太さと質量なのに、痛いと感じたのは最初だけだった。  とっくにとろっとろになっていた俺は、後孔ですんなりと慎太郎を受け入れ、内部は淫らな収縮を始めていた。 「お前の、俺を締め付けてる。すごいな。こんなにいやらしい体だったんだ」 「んなこと……言うなって」  一応、言い返してはみるものの、俺の体は正直だった。  さっきまで体の中心に小さな虫が這い回ってでもいるような、もどかしい感覚に苛まれていたのに、今はすごく満ち足りている。  気持ちがいい。  もっと奥まで来てほしい。  そして思いっきり突きあげて欲しい。  薬におかされた俺の体を鎮めて欲しい。 「全部……入った」  最奥までを征服した男はそう言うと、嬉しげに目を細めた。 「俺のが、中まで届いてるのわかる?」 「だから……そういうこと……言うなって」 「お前の中、俺の形に馴染んでる」 「だから……怒るぞ」  ビクンと俺の体が勝手に動いて、あからさまに内部を締め付けた。  慎太郎が一瞬眉根を寄せて、その後薄い笑みを浮かべる。 「もっと動いてって、俺に言ってる?」 「違っ……」 「違わない。リクエストにお応えしてしてやるよ」 「ああっ……」  一度抜かれ、今度は角度をつけて挿入される。  俺は悩ましく喘ぎ続けた。

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