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思わぬ訪問者~Witching hour 番外編~

二年前に公開した『Witching hour』の番外編になります。 人気脇役だった永志郎さんメインのSSです。 **** 「ハロウィンなのにひとりぼっちですよ、酷くないですか?」 「そうだね。こんな可愛い子を一人にするなんて」 遠距離恋愛中の恋人、秀志(しゅうじ)が仕事で会えないと連絡があったのが昨日。 たかがハロウィンでそこまでと思われるかもしれないが、俺たちには特別な日だ。 「ドタキャンとかありえねぇ……」 空になったグラスに悪態を吐いて、ひんやりとしたテーブルに突っ伏す。 「これ以上はもうやめときなさい、飲みすぎだから。送って行くから帰ろう」 低い穏やかな声で促されるとグラスを取り上げられる。 「嫌だ、今日は帰らない」 「まったく……困ったなぁ」 「ここのホテルに泊まる」 「え……」 「だから、部屋まで連れてって。あ、いいこと思いついた!」 「いいことって……」 「一緒に泊まろうぜ。部屋で飲み直す!」 男の腕を掴み、なぁと促すと渋々承諾してくれた。 ** 「なぁ、俺が誰かわかってるんだろ?」 部屋に入るとスマートにベッドへと寝かされる。そのまま男が隣に腰掛けると、問われた。 「秀志の爺ちゃん……いや、永志郎(えいじろう)さんて言った方がいいか?」 「わかってて部屋に連れ込むなんて、正気か?」 「さぁな。今日はあんたと飲みたい気分なんだ……二年ぶりだから」 「円果(まどか)は相変わらずだな……」 「それに……二年前、俺たちを騙したから仕返しだ」 「騙してないだろ。あの後は俺のお陰で盛り上がって秀志といいことしたんだろ?」 薬指に視線を移しニヤリとすると、素早く体勢を崩して手を取りそこにキスされた。 「ちょっ!」 「プロポーズまでされて、そのあと気を失うまでヤり通しだったもんな」 「な、なんで知ってんだっ!!」 「俺、こう見えてあの世から来てるんで。円果が色っぽく啼いてる姿、上から全部見てたぜ」 不敵な笑みを浮かべながら、慣れた手つきでタバコに火をつける。 「お、おいっ!! 勝手に見てんじゃねぇ!」 「そんなの俺の勝手だろ。それにその指輪、俺が買ったやつだって忘れんなよ」 タバコを咥えたまま顎で指図するように薬指に視線を流す。 「あ……そっか」 「そっかじゃねぇよ。俺からの指輪大事にしろよ」 「それ、なんか違う気がするけど」 「ま、どっちでもいいだろ。それとも、秀志に新しい指輪買ってもらうか?」 仰向けのまま、左手を突き出すように上へと伸ばす。すると、ゴールドの指輪が間接照明に照らされるとキラリと光った。 「この指輪がいい。永志郎さんとうちの爺ちゃんの分まで幸せになるって秀志と約束したから」 「お前はアイツによく似てる」 「アイツって爺ちゃん?」 「あぁ。だから、円果を見てると抑えが効かなくなってな……すまん」 短くなったタバコを灰皿に押し付け揉み消すと力なく呟く。そのまま、覆いかぶさってくると冷たい指先が頬を滑っていった。 「秀志には内緒だぞ」 そう囁く声と視界が暗くなるのは同時だった。 「……っ……ちょっ……」 「これが最後だ……許してくれ」 二度目のキスも触れるだけの優しいキスで、逆に苦しそうに囁く声は少しだけ震えていた。 秀志にはあとで正直に謝ろう。きっとわかってくれるはずだ。 心中で誓うとすぐに、ふっと身体が軽くなる。いつの間にか瞑っていた目を開けると、永志郎さんの姿は跡形もなく消えていた。 置いていったのは唇に宿った温もりと灰皿に残ったタバコの吸い殻。それと……。 ** 「秀志、ごめんなさい」 「爺ちゃんがまた来たんだろ?」 「なんで知ってるんだよ」 次の日、秀志が俺の元へとやって来てきた。理由は明白、永志郎さんのことだ。 「円果とのこと、一部始終わざわざ説明して謝罪したら消えてった」 「え、じゃあ……」 「爺ちゃんには、三度目は許さないって言ったら、もう二度と現れないから三度目はないって言ってた」 「二度あることは三度あるからなぁ」 「呑気なこと言ってる場合じゃないだろ」 「俺、爺ちゃんにそっくりらしいよ。だから、許してやれよ」 「それでも三度目は許さない。いくら似てても円果は円果で俺の男だ」 「永志郎さんもあの世でうちの爺ちゃんに叱られてるかもな」 「円果っ!」 「ごめん、ごめん。まさかまた現れると思わなかったからさ。でも、相変わらずお前の爺ちゃんは渋くてかっこいいよな」 秀志がムキになってる姿もお見通しなんだろう。それもきっと全て計算のうちだとしたらタチが悪いけど。 「あのさ……俺、本気で怒っていいか?」 「ちょっと待って、話はまだ終わってない。秀志もあんな風に渋くてかっこよくなってくのかなぁ……って思った」 「で、爺ちゃんにときめいたんだろ」 「いや、違う。お前に早く会いたいって思った」 「円果……」 「秀志が一番に決まってるだろ。だから、永志郎さんみたいに渋くてかっこよく年取れよ」 「なんか、複雑なんだけど」 「気の所為だって」 「結局さ、爺ちゃんは何しに来たんだ?」 「さぁ……」 永志郎さんは確かに完璧かもしれない。けど、俺には秀志しかいない。そう心中で誓うと永志郎さんの笑い声が聞こえた気がした。 END

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