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top secret~リクエストSS~

「なぁ、どういうことだよ」 「なにが?」 「雑誌のインタビューの原稿。恋人はいますってはっきり書く馬鹿がいるかよ」 「だって、いるだろ。目の前に」 「瞬、お前が今置かれてる立場を考えろ。トップモデルが軽々しく恋人がいるなんて言うな」 「ちょっと、航平! なに消してんだよ!」 瞬との仲が発展して仮の恋人同士になったわけだが、世間には絶対にバレてはいけない。 ましてや、雑誌のインタビューで馬鹿正直に答えるなんて。 「恋人はいない。今は仕事が楽しくてそんな時間があるなら撮影がしたいです……と。これでいい。それに仕事の時は名波さんと呼べって何回言ったらわかるんだ」 「嘘ばっか。それに、事務所にもう誰もいないし呼び方なんか別にいいだろ」 「ダメだ。家以外では名波さんと呼べ。原稿もこのまま出すから頭に入れとけ」 生意気なのは今に始まったことじゃないが、公私混同はいけない。 甘やかすとモデル生命も危うい。だから、マネージャーとして瞬を管理するのは当たり前なのだが、当の本人は…… 「ここでキスさせてくれたら我慢する」 ……この調子だ。 「絶対にダメだ」 「名波さんお願い」 「お前のお願いは何回目だ。もう甘やかさないって決めたんだ、帰るぞ」 「ケチっ。つーか、嘘つく気は無いから」 「馬鹿正直に言ってみろ、仮が付いた恋人からも降格だからな」 「あっそ。いいよ、別に」 静まり返った室内に響く瞬の足音。不機嫌さをぶつけるかのように乱暴にドアを開ける音が響く。 「明日、八時に迎えに行く」 何も言わない瞬が出ていく後ろ姿を目で追うと、深くため息を吐いた。 * 雑誌の特集記事の撮影を終え、そのままスタジオでインタビューを受ける。 担当者が質問を投げかけ、瞬が淡々と質問に答える。その姿を少し離れた位置から見守る。 「では、最後の質問です。今、恋人はいますか?」 昨日の調子じゃ、余計なことを言う確率は高いと身構えていると、視線を流した先で瞬と目が合った。 余計なことは言うなよ、と、無言の圧力をかける。 「……えっと、恋人は……いません。でも、尊敬してる人はいます」 表情を変えず、淡々と。なのに、視線は真っ直ぐと俺を捕え熱く注がれている。 「同じ業界の方ですか?」 「そうですね。その人みたいになりたいし、憧れてます」 インタビュアー越しに視線を絡ませたまま、瞬はまるで知らしめるかのように言葉を続けた。 「惹きつけられる魅力を持っていて、同性なのにうっかり恋してしまいそうになります」 「なるほど、男性から見ても魅力的なんですね」 「はい。僕は、その人のためなら全てを捧げてもいい。そのくらい尊敬してます」 「あはは。まるで愛の告白のようですね」 「とにかく、僕はその人に認めてもらえるように努力するだけです」 首筋から顔まで赤くなるのが自分でもわかった。 俺の目を見ながら強い意志を持って放たれた言葉の意味を、理解できないほど馬鹿じゃない。 「ちなみに、その人誰か教えてくれます?」 「内緒です。誰にも言うなって口止めされてるんですよ、僕は言っても構わないけど」 「相手は瞬くんが尊敬してることは知ってるんですね。誰だろな、気になります」 「降格しちゃうんでこれ以上は言えません」 「降格?!」 「いえ、なんでもありません。そろそろ終わりにしてもいいですか?」 「あ、はい。今日はありがとうございました」 宣言通り、瞬は嘘をつかなかった。 嘘偽りなく、どこまでも真っ直ぐな想いを答えていた。 * 「……っ……ん、……ふ、ん……しゅん……離れろ……っ」 「約束は守ったんだから、キスくらいさせろよ」 事務所に戻って二人きりになった途端、ソファーに押し倒された。 もうすぐ日付が変わる深夜、薄暗い室内には俺と瞬……二人きり。 「偉そうに言うな……っ……よ」 「顔、真っ赤にしてたくせに。嬉しかった?」 「馬鹿言うな……っ……ん……っ」 「俺の憧れの人は名波航平。元トップモデルで今は専属マネージャーで恋人……て、全部言ったらインタビュアーの人、どんな顔したんだろうな」 「やめっ……ろ……んっ」 「やめろってどっちのこと? 暴露、それとも今、ネクタイほどきながら航平にキスしてること?」 「どっちも……だ……っ…」 見下ろす瞬の首から垂れ下がるネックレスには、俺があげた指輪が光っている。 乱れた髪の間から覗く眼差しと、ネックレスの揺れが妙に大人びていて色っぽい。 「なぁ、このままスる?」 真顔で言われたらどうにかなりそうだ。 「瞬……」 無意識に伸ばした指先をネックレスに引っ掛け、グッと引き寄せ距離を詰めると自分からキスをする。 「それ、OKて意味だって受け取るからな」 甘やかさないって決めたはずなのに…… 俺はマネージャーとして、年上として、瞬を管理する立場のはずなのに…… 矛盾を飲み込むように再び瞬の口を塞ぐ。 そして、ため息が吐息に変わる頃、俺の理性は完全に崩れ去っていった。 END 2021/3/3

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